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セールストーク
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サチコは現世では、人見知りだった。小学生の頃も友達を一緒に騒ぐことはほとんどなく、無口で消極的な女の子だった。
現世の記憶があるせいか、異世界に転生してからは少しだけ変わった。人見知りは改善し、社交性と協調性を持ち合わせていた。なぜなら、現世で培った知識と情報があるため、大人のふるまいができたからだ。
大人びた女の子というのが、周囲が抱くサチコの印象だった。だからこそ、アニーも宿屋でのブレスレット販売を認めたのである。
アニーの宿屋は早朝から夜まで開いており、居酒屋は夕方から深夜まで営業している。両方を合わせて毎日百人ほど出入りしているので、ビジネスチャンスは大きいといえる。サチコはショウと一緒にブレスレットを宿屋に運び込み、片っ端から声をかけていった。
例えば、こんな具合である。
「おじさん、少しだけ話を聞いてもらえませんか。東洋の信心深い国に、こんな言い伝えがあります。このブレスレットを身に着けておくと必ず願いが叶う、というのです。誰にでも願い事がありますよね。おじさんにも、きっとあると思います。まず、願い事を口に出しながら、ブレスレットを身に付けるんです。これは木の蔓でできています。だから、肌身はならずにいると、いつか千切れてしまうことになります。その時、おじさんの願いが叶うんですよ」
つまり、〈願いが叶うブレスレット〉という触れ込みでセールスを行ったのだ。それはアニーに見せたメモと同じ内容であり、ショウにも同じように売らせた。
東洋の信心深い国とは、もちろん現世の日本を指す。〈願いが叶うブレスレット〉の元ネタがミサンガであることは言うまでもない。
サチコはターゲットをおじさんに絞った。おじさんのための商品というわけではない。おじさんに買わせる、という意味だ。例えば妻子への土産として買ってもらいたい、と目論んでいたのである。
さて、ブレスレットの売れ行きはどうなったのか?
初日は8個売れた。二日目は12個、三日目は15個。口コミが広がったのか、四日目は一気に35個、五日目の昼過ぎに在庫がなくなった。アニーの指定した一週間の期限を待たずに、ブレスレットは見事完売したのだ。
アニーは満面の笑顔で、
「あんたには驚かされたよ。まさか、こんなに売れるとはね」
サチコも安堵の微笑みを浮かべ、
「幸運でした。皆さん、大喜びで買っていかれるんですもの」
「あんたには大急ぎで作ってもらわないと。もちろん、追加分のことだよ。すでに予約分が殺到しているんだ。のんびりしてはいられないよ」
「はい、商機は逃しません」
サチコはショウと一緒に、追加分の制作にとりかかることにした。
売れることは確定済みなので、やりがいは前回の二倍増しだった。
現世の記憶があるせいか、異世界に転生してからは少しだけ変わった。人見知りは改善し、社交性と協調性を持ち合わせていた。なぜなら、現世で培った知識と情報があるため、大人のふるまいができたからだ。
大人びた女の子というのが、周囲が抱くサチコの印象だった。だからこそ、アニーも宿屋でのブレスレット販売を認めたのである。
アニーの宿屋は早朝から夜まで開いており、居酒屋は夕方から深夜まで営業している。両方を合わせて毎日百人ほど出入りしているので、ビジネスチャンスは大きいといえる。サチコはショウと一緒にブレスレットを宿屋に運び込み、片っ端から声をかけていった。
例えば、こんな具合である。
「おじさん、少しだけ話を聞いてもらえませんか。東洋の信心深い国に、こんな言い伝えがあります。このブレスレットを身に着けておくと必ず願いが叶う、というのです。誰にでも願い事がありますよね。おじさんにも、きっとあると思います。まず、願い事を口に出しながら、ブレスレットを身に付けるんです。これは木の蔓でできています。だから、肌身はならずにいると、いつか千切れてしまうことになります。その時、おじさんの願いが叶うんですよ」
つまり、〈願いが叶うブレスレット〉という触れ込みでセールスを行ったのだ。それはアニーに見せたメモと同じ内容であり、ショウにも同じように売らせた。
東洋の信心深い国とは、もちろん現世の日本を指す。〈願いが叶うブレスレット〉の元ネタがミサンガであることは言うまでもない。
サチコはターゲットをおじさんに絞った。おじさんのための商品というわけではない。おじさんに買わせる、という意味だ。例えば妻子への土産として買ってもらいたい、と目論んでいたのである。
さて、ブレスレットの売れ行きはどうなったのか?
初日は8個売れた。二日目は12個、三日目は15個。口コミが広がったのか、四日目は一気に35個、五日目の昼過ぎに在庫がなくなった。アニーの指定した一週間の期限を待たずに、ブレスレットは見事完売したのだ。
アニーは満面の笑顔で、
「あんたには驚かされたよ。まさか、こんなに売れるとはね」
サチコも安堵の微笑みを浮かべ、
「幸運でした。皆さん、大喜びで買っていかれるんですもの」
「あんたには大急ぎで作ってもらわないと。もちろん、追加分のことだよ。すでに予約分が殺到しているんだ。のんびりしてはいられないよ」
「はい、商機は逃しません」
サチコはショウと一緒に、追加分の制作にとりかかることにした。
売れることは確定済みなので、やりがいは前回の二倍増しだった。
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