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心はヌーディスト①
しおりを挟むたった一晩で状況が大きく変わることがある。紛争地域や災害現場の話ではない。イリーガルな仕事をしてきた僕の状況だ。
僕の仕事は基本的にお客様を満足させることであり、それ以上でもそれ以下でもない。顧客満足度を追及する点に関しては、他の職業と何ら変わるところはない。
もっとも、男女を問わず、身体を売ることは違法である。ソープランドが堂々と営業していられるのは、警察当局が黙認しているからにすぎない。
まれに特定地域の一斉摘発を行うことがあるが、当局と風俗業の間には暗黙の了解が存在する。
ただ、それはもしかしたら、僕たちの希望的観測だったのかもしれない。第一報を受けたのは、新宿での仕事を終えて、湯島のマンションに帰宅したところだった。
「シュウ、急な話だけど、明日から、ううん、日付が変わったので、今日か。とにかく、しばらくは店じまいだ」
電話をかけてきたのは、ココナさんだった。言うまでもなく、僕の所属する『ナイトジャック』のオーナーだ。
「目をつけられないように地道にやってきたし、トラブルの種は極力避けるように、気を使ってきたはずなんだが……」ココナさんの声は珍しく疲れ切っていた。「やられたよ。すっかりやられた」
「……まさか、警察の手入れですか?」
「ああ、原因は先週面接した少年らしい」
ココナさんの話を要約すると、こういうことだ。先週、キャスト志望の少年が飛び込みでやってきた。ルックスは及第点だったが、第一印象がよくなかった。
髪はボサボサ、肌はザラザラ。服装も薄汚れていた。身だしなみに気を使わないのは、客商売として致命的である。少年に志望動機を尋ねると、友人から紹介されたという。
しかし、その友人の名前を言わない。すぐバレる嘘を平気で吐く人間とは、当たり前だが信頼関係を結べない。
ココナさんは少年に不合格を告げ、早々に帰ってもらったという。興味半分の冷やかしだろう、とココナさんは思っていた。
その少年が売春容疑で警察に捕まった。縄張りを荒らされた同業者が密告したのか、警察の囮捜査にひっかったのか。どちらにしても、自業自得といったところだろう。
ところが、この少年が警察で思いがけない供述をする。自分は借金の糧に、『ナイトジャック』から売春を強要された、と。
そのため、ココナさんは突然、警察の来訪を受ける羽目となった。
「初対面の少年がなぜ、そんな嘘を吐くのか、全然わけがわからない」
ココナさんはそう主張したが、素直に信じてもらえるはずもない。結局、事務所の家宅捜索と任意同行に応じるしかなかったという。
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