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濡れ結ぶ⑨

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 予想以上の効果があった。愛の言葉は彼女の胸に、見事に突き刺さったらしい。僕は嘘を吐いたわけではない。心に浮かんだ言葉を素直に伝えただけだ。

「シュウくん、好き、大好きっ」

 サキさんは乱れに乱れた。僕は彼女のエクスタシーに合わせて、きれいにフィニッシュを遂げた。我ながら、素晴らしい仕事だったと思う。避妊具の後始末を済ませ、バスタオルで彼女の汗を拭いて差し上げる。

「ありがとう、シュウくん。とってもよかった」

 サキさんの幸せそうな表情を見て、達成感と充実感を味わう。

「喜んでいただければ、僕もうれしいです」そう言って、軽く唇を交わした。

 心身共に結びついたセックスは、強固な絆を生み出す。信頼関係と言い直してもいいだろう。並んで横になると、サキさんは訥々と語り始めた。

 もちろん、カズの死についてである。交通事故は〈半グレ〉とは無関係であり、轢き逃げは偶発的、という可能性は既に述べた。

 だが、物的証拠はないものの、状況証拠の積み重ねによって、宮下さんは一つの仮説を立てたという。

「荒唐無稽に聞こえると思うんだけど」と、サキさんは予防線を張った。「その仮説というのが、カズくんが警視庁を脅して、自分に対する捜査をかわそうとしていた、というものなの」

「カズが警視庁を脅した? 捜査をかわすために?」僕は思わず苦笑した。「それは荒唐無稽というよりジョークですね。一体どうやって……」

 言いかけて、頭に浮かんだことがある。確か、監察医務院でカズの遺体を確認した後のことだ。

 僕がカズから「何か受け取ったり預かったりしていないかな」と、宮下さんから訊かれたのだ。「貸金庫の鍵やコインロッカーの暗証番号かもしれないし、何かの資料かもしれない」とも言っていた。

 カズが〈半グレ集団〉の内部情報を持ち逃げしたのか、と思っていたけど、どうやら違った見方ができそうだ。警察を脅すための何らかの情報なのかもしれない。

 例えば、こんな話は考えられないか? カズが『キャッスル』在籍中に、例えば警視庁の幹部から指名を受けた。カズはバイ・セクシャルなので、充分ありうる話だ。

 警視庁に追われたカズが、その幹部に助けを求める。カズは弁明の機会を欲しただけだが、幹部はそれを脅迫と受け取った。言う通りにしないと、男遊びの事実を公にするぞ、というわけだ。

 そして、追い詰められた幹部は、思い余ってカズを……。

 もちろん、僕の想像だ。ただの妄想にすぎない。でも、傍らにいるサキさんのことを忘れるほど、その考えは圧倒的なリアリティをもって、僕の頭を支配してしまった。
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