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濡れ結ぶ①
しおりを挟む仮名,山本さん、本名,サキさんは僕の顔を見つけたとたん、ペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
僕は黙ったまま、彼女の顔を見つめる。以前、待ち合わせた時と同じ、上野駅公園口の改札前だった。僕は無言で、小首を傾げる。
「何の『ごめんなさい』でしょうか?」という意味だ。
「シュウくん、あの、私……」
僕は右掌を見せて、続きの言葉を制する。
「サキさん、とりあえず場所を変えましょう。話は後ほどゆっくり」
優しく彼女の腰を抱いて、さりげなくエスコートする。不忍通りに入れば、『ナイトジャック』所有のマンションまで10分とかからない。
そこはワンルームマンションだ。フローリングの床に、キングサイズのベッドとクローゼットがあるだけだ。誰も暮らしていないので、生活感はまったくない。
ラブホテルに抵抗感のある方のためのスペースである。キッチンの冷蔵庫から飲み物を出し、僕たちはベッドに腰を下ろす。
「シュウくん、ごめんなさい」
一体、何度目の謝罪だろう。僕は許す許さないの前に、話を前に進める。
「サキさん、この前、僕に嘘を吐きましたね?」
「……」
「僕のことをカズから聞いたというのは嘘ですよね。そもそも、カズには一度も会ったことがないんじゃないですか?」
カズとの対面についてだけど、僕よりサキさんがすべきではなかったか?
女性警察官と犯罪者の関係がまずいのなら、とりあえず、確認するだけでもいい。僕に対面させる必要などなかったはずだ。
さらに、前回、サキさんは言っていた。
「カズが尊敬していたシュウくんに会おうと思ったの」
この言葉も、今では信用できない。麻布警察署交通課の彼女と生活安全課の宮下さんが策を弄して、僕に接触してきたのは確かなのだから。
「ううん、カズくんと会っていたのは本当よ。嘘吐きと思われても仕方ないけど、それだけは信じて」僕の眼を見て、サキさんは訴えた。「カズくんは君のことをよく話してくれた。ああ、好きなんだな、尊敬しているんだなって直感したの。だから、カズくんが接触するなら君しかない、と思った」
それが嘘だとは思わないが、話半分で聞いておこう。
「では、率直に訊きます。サキさんとカズのこと、署内ではどういう扱いなんですか?」
彼女は少し考えから、神妙な顔で答えた。
「わかった。正直に答えるわね。その件を知っているのは先輩の宮下だけだし、シュウくんのことも含めて署内では秘密にしているの。知っているのは一握りの署員だけ」
上目遣いの彼女は、とてもセクシーに見えた。しかも、情欲に染まっている。
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