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ボーイズ・エクスタシー⑤

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「ほとぼりなんか全然冷めてないよ。年末、警察からレイカさんのところに問い合わせがあったらしい。もちろん、カズの件だ。そのうち、僕のところにも来るかもな」

「そうっすね。ここにいたら、シュウさんに迷惑ですよね」

「これって、犯人隠避はんにんいんぴの罪になるのかな。まぁ、警察は苦手だし、知らぬ存ぜぬで通しておくよ」

 僕は近くの収納ケースから、茶封筒を取り出した。

「ただ、厄介ごとはゴメンだ。陽が上ったら出て行ってくれないか」
 そう言って、カズに茶封筒を差し出した。十万ほど入っているはずだ。

 しかし、中味を察したカズは、首を横に振った。

「これはダメっす。受け取れないっすよ。俺はただ、シュウさんに謝りに来ただけで……」

 すんなり受け取るのは、プライドが許さないらしい。つくづく面倒くさいヤツだ。

「一度、僕の手から離れたんだ。黙って受け取ってくれよ」

 カズは少し考え込み、とんでもないことを口にした。
「……なら、そのカネで俺のこと、買ってくれないっすか」

 カズの真っ直ぐな眼差しを僕はしっかり受け止めた。先に眼を逸らすわけにはいかない。ここは僕のテリトリーだし、主導権はこっちにある。

「おいおい、笑えないジョークだな」

 カズは笑わなかった。
「気が済むまで、俺のこと、好きにしていいっすよ」

 真面目に言っているらしい。カズは立ち上がり、僕の目の前で、腰に巻いていたバスタオルを外した。逞しく屹立したそれが露わになる。思わず、笑いがこみ上げた。

「カズ、罪滅ぼしのつもりか? こんなの、ナンセンスだよ」

 だが、カズは眼を逸らさない。身も心も裸になって僕に詫びを入れたい、とでも言いたいのか。

 カズのバナナを見るのは二度目だな、と他人事のように思う。喉の渇きを感じた。僕は苦笑して、ペットボトルの水を飲む。カズは身じろぎもせず、僕の言葉を待っている。

「一つ確認させてくれ。“好きにしていい”って言ったな。お客様の希望に絶対服従というわけか?」

 カズは頷いた。僕は苦笑する。心を決めた。人間関係のしがらみは、さっさと断ち切るに限る。

「わかった。こっちに来い」

 生活空間を汚したくはない。僕たちはバスルームに向かった。空っぽのユニットバスにカズを入れた。ショーツを脱ぎ捨てて、僕も続く。狭い湯船なので、二人で満杯である。
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