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ボーイズ・エクスタシー④
しおりを挟む主犯でなくても、分け前を受け取らなくても、立派な共犯者である。後ろ暗いカネだとか、被害者が悪党、酔った勢いなどと並べ立てても、正当化はできない。
「しかも、仲間から抜けようとしたら、とたんに裏切り者扱いっすよ。その上、見せしめに警察に売りやがった」そう言って、カズは口を尖らせる。
「それは理不尽とは言えないな。自業自得だろう」
僕は苦笑して、抱きしめていたカズを離した。明かりをつけて、ショーツを身に着ける。
カズの抱えている事情を聞くつもりはなかったが、こうなっては仕方がない。冷たい水で顔を洗い、頭をスッキリさせる。
敷き布団を畳んで、まるめたタオルケットと一緒に、リビングの隅に追いやった。ペットボトルの水を手に、ラグマットの上で胡坐をかく。見ると、カズはかしこまって正座をしていた。
「何だ、脚が痺れるだろ。リラックスしろよ」
「そうっすか。じゃあ、お言葉に甘えて」
「ほら、さっさと話せ」
「どこまで話しましたっけ?」
「カズが警察に売られて、それは自業自得だろ、というところまでだ」
「そうそう、中坊のイジメと同じっすよ。俺をストレスの捌け口にしやがって」
「どんな風に売られたんだよ」
「それが別口の事務所襲撃の主犯にされちまいました」カズは他人事のように笑う。
そういえば年末に、ココナさんが電話でそんなことを言っていた。警察が窃盗事件の重要参考人としてカズを追っている、と。
「その別口の被害者は素人さんなのか? 暴力団とか半グレなら、そっちの追手の方がやばいだろ」
〈半グレ〉というのは、恐喝、詐欺、窃盗といった、ヤクザ顔負けの犯罪を繰り返す連中だ。犯罪予備軍として、警視庁も危険視している。
「ええ、まさにその半グレっすよ。捕まったら半殺しは確実。だから、しばらく地方に逃げていました」
自慢の赤いスポーツカーを処分し、蓄えを切り崩しながら、全国各地を転々としていたらしい。
ホテルは足がつきやすいので、カズは小さな旅館を選んで泊まり歩いたとか。警察と追手の眼から逃れて、ほとぼりが冷めるのを待つつもりだった。半年以上の逃亡生活を送れると踏んでいた。
だが、予想以上に出費がかさみ、有り金が尽きてしまう。カズは東京に舞い戻る羽目になってしまった。
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