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ボーイズ・エクスタシー②
しおりを挟むガリガリに痩せたカズの身体を抱きしめた。自分でも意外なことに、母性が目覚めたようだ。母親が幼子にするように、優しく背中をなでてやる。
痩せた身体にガサガサに荒れた肌。不健康な暮らしを長く続けているらしい。
根っから陽気な性質で表情が豊かだったのに、今のカズはどんよりと濁った膜で全身を覆われているようだ。
「どうして、俺を殴らないんすか?」喉の奥から絞り出すように、カズが呟いた。「ボコボコにされても仕方ないと思うんすけど」
「んん、元々、暴力は好きじゃない。下手に殴って手を痛めたりしたら、愚の骨頂だしね」
「……シュウさん、何か変わりましたね」
「そうか?少しも自覚はないけどね」できるだけ、素っ気なく言ってやった。「お前には必要以上に関わりたくないんだよ」というニュアンスを込めたつもりだ。
カズをマンションに引き入れた以上、カズの身の上に何があったのか、キチンと問いただすのが本筋だろう。
でも、僕はそれをしなかった。一年前の話を持ち出し、僕に行った仕打ちを責めたり、カズに詫びさせたりもしなかった。
僕がしたのは、ドアの前にうずくまったカズを引き起こして、急いで沸かした風呂に入らせ、手料理を食べさせただけだ。
もっとも、正月にも関わらず、ハムエッグに豚汁、千切りキャベツという組み合わせ。食欲のないカズはほとんど手をつけなかったが。
それはさておき、僕がカズを責めないのは、断じて優しさからではない。
むしろ、真逆だ。カズにまるで興味がない。僕を憎んで去っていった男など、僕の人生には必要のない人物、と認識している。
もし、カズの言う通り、僕が変わったのなら、人間関係に冷徹になったのかもしれない。仕事を離れると、ほとんど愛想を振舞うことはない。孤高を気取っている、と言われたこともある。
なのに、カズの背中を優しく撫でているのは、矛盾以外の何物ではない。
「……せん、でした」
考え事をしていたので確かではないけれど、どうやら、カズは僕に謝罪をしたようだ。しばし、無言の時が過ぎていく。僕の胸に頬をつけたカズがポツリと呟いた。
「シュウさん、あれから、『キャッスル』を辞めたんすね」
「ああ、カズの思惑通りというか、それ以上の展開を見せてね」
「本当に申し訳ありません」
僕は苦笑を浮かべる。真実を述べれば、すべて僕の責任だった。少し説明しておこう。一年前の出来事を御存じない方もおられるだろうから。
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