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逝けない女①

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 この仕事を始めた頃は、女性の口が汚れるような気がしてフェラチオが苦手だった。

 お客様から求められたとしても、レイプまがいの荒々しいセックスは好きではなかった。

 それでも、キャリアが3年目を迎えた今は、平気でこなしている。これも職業病というのなのだろうか?

 梨美さんの瑞々しい身体を抱きながら、しばし思いを巡らせる。

 初めてのお客様だし、『ナイトジャック』はおろか、男性を買ったことも初体験だという。20代半ばに見えるけれど、男性経験はほとんどないらしい。

 気が強そうに見えるけれど、指定の場所で会った時から彼女は緊張していた。キスする時はぎこちなかったし、強張った表情がなかなかほぐれない。

 まずはリラックスしてもらおう。梨美さんの肌に優しく指先を這わせたり、丹念に水蜜桃を愛撫したりした。

「シュウくん、やめて。それ、くすぐったい」

 まだ、性感帯が未開発なのだろう。僕は素直に愛撫を止めた。彼女を引き寄せて優しく抱きしめる。

「ごめんなさいね。私、不感症なのかも……」

 梨美さんは、僕の胸に頬をのせて、ポツリと呟いた。

「そんなことはないと思いますよ」
「でも、元彼に言われたことがあるし」

 心ない一言によって、セックス観が大きく変化することがある。根拠のない無責任な言葉に耳を貸すことはないのに。

「シュウくん、とってもいい匂い」

 梨美さんは眼を閉じて、身体をり寄せてくる。香水はつけていないので、汗に含まれているフェロモンなのかもしれない。

「梨美さん、何かリクエストはありますか?」
「リクエストって?」
「こうしてほしいとか。こうしたいとか」
「そうねぇ……」

 僕の胸や腕に触れながら、彼女はしばらく考え込む。

 やがて、ペロリと舌を出し、僕の胸のチェリーを舐めた。舌先で触れてほんの少し濡らしただけだ。上目遣いで僕の反応を窺っている。

「構いませんよ」僕はにっこり微笑んだ。「梨美さんのお好きなように、僕の身体を扱ってください」

 彼女は照れ笑いを浮かべながら、僕のチェリーを舐め始めた。

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