天使の穴には牙がある【R18】

坂本 光陽

文字の大きさ
上 下
1 / 18
プロローグ

死に至る病

しおりを挟む
 エロスとタナトスはよく馴染む。

 タナトスとは、死を司る神のことである。確か、ギリシャ神話の死神だったと思う。拡大解釈をすれば、死の恐怖と言い直してもいいはずだ。

 人は死の恐怖を感じると、エロス、すなわち生殖本能が活性化するという。死ぬ物狂いで自分の遺伝子を残そう、というわけである。

 例えば、ヤクザ映画で定番のシーンがある。主人公が決死の殴りこみの直前に、愛する女とのドロドロの濡れ場を繰り広げるのだ。ありきたりな展開ではあるが、当事者にとって死を覚悟した時のセックスは相当に盛り上がることだろう。

 エロスとタナトスはよく馴染むといえば思い出すのだが、あなたはこんな話を聞いたことはないだろうか?

 ある男がバーで見知らぬ女に声をかけられ、つい関係を持ってしまう。翌朝、男が目を覚ますと、すでに女の姿はない。ただ、洗面台の鏡に口紅で書かれた「エイズの世界にようこそ」というメッセージが残されていた。

 死の恐怖を味わうことで、男は天国から地獄に急降下というわけである。もっとも、エイズの治療に関しては、この数十年で大きく変った。完治はできなくとも、薬によって発症を防ぐことができるようになった。

 この「エイズの世界にようこそ」という話は、一般に「エイズ・メアリー」と呼ばれている都市伝説だ。男が女を誘惑する、男女が逆のバージョンもある。

 あなたが聞いた話では、日本が舞台になっているかもしれないが、世界各国によく似た話があり、実はアメリカがルーツだと言われている。都市伝説のルーツを辿ると、実は欧米の話だったということは意外と多いのだ。

 さて、「エイズ・メアリー」から派生したと思われる都市伝説がある。

 ある男が行きずりの女性と関係を持ち、翌朝、目を覚ましたら女性の姿がないのは「エイズ・メアリー」と同じである。ただ、残されたメッセージは、「あなたも死者の仲間入り」というものであり、さらに、それを防ぐ唯一の方法が書いてあるのだが……。

 今、明かせる情報はこれぐらいである。続きは追い追い語っていくとして、当事者たちの味わった恐怖の体験について書き進めて行こうと思う。
しおりを挟む
拙作『天使の穴には牙がある【R18】』を読んでいただき、本当にありがとうございます。どうぞ、お気軽に御覧ください。「お気に入り」登録や御感想を聞かせていただければ幸いです。『裸のプリンス【R18】』と『ブラックアイドル【R18】』も合わせて、よろしくお願いいたします。ホラー・ミステリー大賞に参加しますので、合わせてお願いします。
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

精神病の母親

グランマレベル99
ホラー
見ればわかる

ママが呼んでいる

杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。 京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。

まばたき怪談

坂本 光陽
ホラー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎるホラー小説をまとめました。ラスト一行の恐怖。ラスト一行の地獄。ラスト一行で明かされる凄惨な事実。一話140字なので、別名「X(旧ツイッター)・ホラー」。ショートショートよりも短い「まばたき怪談」を公開します。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

赤い部屋

ねむたん
ホラー
築五十年以上。これまで何度も買い手がつきかけたが、すべて契約前に白紙になったという。 「……怪現象のせい、か」 契約破棄の理由には、決まって 「不審な現象」 という曖昧な言葉が並んでいた。 地元の人間に聞いても、皆一様に口をつぐむ。 「まぁ、実際に行って確かめてみりゃいいさ」 「そうだな……」

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

処理中です...