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回想エクスタシー①

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 ベストセラー作家,御木本早苗先生が亡くなった。

『キャッスル』に務めていた時に、五度ほど御指名を受けたお客様だ。僕が『ナイトジャック』に移ったので、半年足らずのお付き合いにすぎない。当時から体調が悪く、身体を交わしたことはなかったけれど、とても個性的で印象的な方だった。

 初対面の時、僕の抱くセックスの既成概念は粉々に打ち砕かれた。あの時のことは一生忘れられない。何といっても僕は初めて、偽ザクロを犯されたのだ。ああ、偽ザクロというのは、後ろにあるフルーツのことである。(『裸のプリンス』「抱けない女」参照)

 しかも、お相手は男性ではなく、女性だった。御木本先生ではない。先生のアシスタント兼ボディガード,アグリさんだ。

 アグリさんは元格闘技の選手で、小柄だけど、鍛え抜かれた身体をしていた。腕の太さと胸の厚さは、僕とほとんど変わらない。下腹部に固定された〈偽バナナ〉が屹立した様は、今でもまざまざと思い出せる。

 あれは去年の夏の出来事だった。まだ、一年も経っていないのか。時の流れの速さを思い知らされる。

 御木本先生と最後にお会いしたのは、今年一月、『キャッスル』を去る御挨拶に、成城のお屋敷にうかがった時だ。自宅療養中で車椅子を使っておられたが、とてもお元気そうだったのに。

 お身体のことがあるので、先生とのプレイはキスだけにとどめた。その代わり、先生の目の前で、僕はセックスをした。相手はアグリさんだった。

 ただ、以前のように、アグリさんが〈偽バナナ〉で僕の〈偽ザクロ〉を貫いたのではない。先生の御命令を受けて、僕がキツリル下バナナでアグリさんのザクロを貫いたのだ。

 今、思い返せば、あの時、先生はアグリさんに御自分を重ねていたのかもしれない。先生のお身体が健康だったなら、優しく抱いて差し上げたのに。つくづく、残念でならない。

 年配の方の性欲を浅ましいとは思わない。他の人と心と身体で結びつきたい。それは、とても人間らしい欲望だと思う。

 ネットニュースによると、先生の葬儀・告別式は家族葬で行うとある。仕事関係やファンの方々のために、後日、近所のホールでお別れ会を催す予定らしい。

 先生とお別れをしたい気持ちはあるけれど、僕は仕事の関係者ではない。やはり、参列は遠慮した方がよさそうだ。仕事帰りに書店で著作を購入し、先生のことを想うだけにとどめた。

 だけど、僕が考えている以上に、先生との御縁は深かったようだ。数週間が経過した頃、アグリさんから連絡をもらった。

「先生から預かっているものがあります。御都合のよい時に一度お会いできませんか」

 もちろん、僕は快諾した。
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