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ライバル探偵の死

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【2】

 鈴木は二階堂に言われたとおりに夫のほうをつけていた。
 彼は考える。
 どうして、谷川夫婦を疑うのだろう。
 疑いを向けるのは他にいるのではないか。
 そこまで執着をするのか理解できない。
 鈴木は谷川光が来たときの印象を思い出す。
 谷川光は怯えた様子で、虫一匹殺せなさそうなか弱くみえた。
 もしも夫婦のどちらかを殺すなら妻が手伝わされる。
 どちらかというと、夫が人を殺害するのだろう ── 彼はあれこれと思う。
 谷川由伸に動きはない。
 どうやら、営業を行くことはないようだ。
 事務作業を黙々とこなす姿がうかがえる。
 同僚と話す様子はない。
 見ているとパソコンに向かい、キーボードを叩いている。
 腕時計に目をやると午後の1時になっている。
 鈴木は向かいにある飲食店から移動した。




 食堂で彼はうどんを注文する。
 鈴木は谷川孝から離れて、座る。
 昨日は二階堂がいたおかげで近づくことはできたが、今回は違う。
 ひとりだと浮いてみえるからだ。
 周りはスーツの格好、作業着の格好が多い。
 一組、二組は子連れの母親がいる。
 鈴木は常に動きやすい格好にしており、今日は灰色にフードつきのジャージを着ている。
 彼は耳に神経を集中させた。
 昨日と変わらず、対象の人物は口をなかなか挟まない。
 もしかしてこっちがつけているのがばれたのか、と鈴木は不安になった。
 だが、頭をふる。 そんなことはない。
 対象の人物は鈴木のことをチラチラ見る素振りもなければ、目すら合うことはない。
 谷川由伸は食事を終えて、ひとりで会社に向かう。
 社員たちは当たり前のようにふるまっている。




 彼は考えた。
 ひょっとして、会社で浮いた存在ではないだろうか。
 といっても、社員たちは露骨に嫌な顔を出すことはなかった。
 鈴木は食堂の会計をすませて、監視しやすい場所を探す。
 ポケットの携帯電話が震える。
 二階堂からだった。
 鈴木は電話をとる。
「鈴木君、そこはもういいから。 すぐに事務所に来て。 伝えたいことがあるの」
「分かりました。 二十分したら着きます」
 鈴木は電話を切り、早足で向かう。
 事務所につくと二階堂だけだった。
 探偵は座るように促す。
 鈴木は腰をおろす。
「伝えたいこととは何です?」
「谷川由伸は同僚殺しの犯人よ」
「それはどういうことですか?」




 彼にはさっぱり分からなかった。
「私は資料に目を通して、谷岡刑事に現場に入るように頼んだの。 むこうは承諾してくれて、検分したわ。 現場は同僚の部屋なの。 同僚は1LDKの部屋に住んでいて、物は少ない。 資料どおりに180cm以上であることは分かり、食器棚の裏に複数の毛が落ちていた」
「それが谷川由伸のものだったってことですね」
 二階堂は首を横にふり、口をひらく。
「茶色の毛よ。 隣に犬連れの人物は来なかったかと訊いたら首を縦にふったわ。 愛犬“ペロ”の毛と断定できるの。 同僚はペットを飼っておらず、被害者の家に谷川由伸だけが犬を連れてくるのが目撃されている」
 「その“ペロ”とやらはどこにいるのでしょう」
「それね、谷川家に帰っていた様子はないらしいの」
 鈴木は内心つぶやく ── そういえば、谷川光からは犬の話題は出なかったな。 家族としてとらえていないのか。
「で、明日はとうとう行くのですね」
 もちろんよ、と答えた。
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