13 / 19
ライバル探偵の死
6
しおりを挟む
【2】
鈴木は二階堂に言われたとおりに夫のほうをつけていた。
彼は考える。
どうして、谷川夫婦を疑うのだろう。
疑いを向けるのは他にいるのではないか。
そこまで執着をするのか理解できない。
鈴木は谷川光が来たときの印象を思い出す。
谷川光は怯えた様子で、虫一匹殺せなさそうなか弱くみえた。
もしも夫婦のどちらかを殺すなら妻が手伝わされる。
どちらかというと、夫が人を殺害するのだろう ── 彼はあれこれと思う。
谷川由伸に動きはない。
どうやら、営業を行くことはないようだ。
事務作業を黙々とこなす姿がうかがえる。
同僚と話す様子はない。
見ているとパソコンに向かい、キーボードを叩いている。
腕時計に目をやると午後の1時になっている。
鈴木は向かいにある飲食店から移動した。
食堂で彼はうどんを注文する。
鈴木は谷川孝から離れて、座る。
昨日は二階堂がいたおかげで近づくことはできたが、今回は違う。
ひとりだと浮いてみえるからだ。
周りはスーツの格好、作業着の格好が多い。
一組、二組は子連れの母親がいる。
鈴木は常に動きやすい格好にしており、今日は灰色にフードつきのジャージを着ている。
彼は耳に神経を集中させた。
昨日と変わらず、対象の人物は口をなかなか挟まない。
もしかしてこっちがつけているのがばれたのか、と鈴木は不安になった。
だが、頭をふる。 そんなことはない。
対象の人物は鈴木のことをチラチラ見る素振りもなければ、目すら合うことはない。
谷川由伸は食事を終えて、ひとりで会社に向かう。
社員たちは当たり前のようにふるまっている。
彼は考えた。
ひょっとして、会社で浮いた存在ではないだろうか。
といっても、社員たちは露骨に嫌な顔を出すことはなかった。
鈴木は食堂の会計をすませて、監視しやすい場所を探す。
ポケットの携帯電話が震える。
二階堂からだった。
鈴木は電話をとる。
「鈴木君、そこはもういいから。 すぐに事務所に来て。 伝えたいことがあるの」
「分かりました。 二十分したら着きます」
鈴木は電話を切り、早足で向かう。
事務所につくと二階堂だけだった。
探偵は座るように促す。
鈴木は腰をおろす。
「伝えたいこととは何です?」
「谷川由伸は同僚殺しの犯人よ」
「それはどういうことですか?」
彼にはさっぱり分からなかった。
「私は資料に目を通して、谷岡刑事に現場に入るように頼んだの。 むこうは承諾してくれて、検分したわ。 現場は同僚の部屋なの。 同僚は1LDKの部屋に住んでいて、物は少ない。 資料どおりに180cm以上であることは分かり、食器棚の裏に複数の毛が落ちていた」
「それが谷川由伸のものだったってことですね」
二階堂は首を横にふり、口をひらく。
「茶色の毛よ。 隣に犬連れの人物は来なかったかと訊いたら首を縦にふったわ。 愛犬“ペロ”の毛と断定できるの。 同僚はペットを飼っておらず、被害者の家に谷川由伸だけが犬を連れてくるのが目撃されている」
「その“ペロ”とやらはどこにいるのでしょう」
「それね、谷川家に帰っていた様子はないらしいの」
鈴木は内心つぶやく ── そういえば、谷川光からは犬の話題は出なかったな。 家族としてとらえていないのか。
「で、明日はとうとう行くのですね」
もちろんよ、と答えた。
鈴木は二階堂に言われたとおりに夫のほうをつけていた。
彼は考える。
どうして、谷川夫婦を疑うのだろう。
疑いを向けるのは他にいるのではないか。
そこまで執着をするのか理解できない。
鈴木は谷川光が来たときの印象を思い出す。
谷川光は怯えた様子で、虫一匹殺せなさそうなか弱くみえた。
もしも夫婦のどちらかを殺すなら妻が手伝わされる。
どちらかというと、夫が人を殺害するのだろう ── 彼はあれこれと思う。
谷川由伸に動きはない。
どうやら、営業を行くことはないようだ。
事務作業を黙々とこなす姿がうかがえる。
同僚と話す様子はない。
見ているとパソコンに向かい、キーボードを叩いている。
腕時計に目をやると午後の1時になっている。
鈴木は向かいにある飲食店から移動した。
食堂で彼はうどんを注文する。
鈴木は谷川孝から離れて、座る。
昨日は二階堂がいたおかげで近づくことはできたが、今回は違う。
ひとりだと浮いてみえるからだ。
周りはスーツの格好、作業着の格好が多い。
一組、二組は子連れの母親がいる。
鈴木は常に動きやすい格好にしており、今日は灰色にフードつきのジャージを着ている。
彼は耳に神経を集中させた。
昨日と変わらず、対象の人物は口をなかなか挟まない。
もしかしてこっちがつけているのがばれたのか、と鈴木は不安になった。
だが、頭をふる。 そんなことはない。
対象の人物は鈴木のことをチラチラ見る素振りもなければ、目すら合うことはない。
谷川由伸は食事を終えて、ひとりで会社に向かう。
社員たちは当たり前のようにふるまっている。
彼は考えた。
ひょっとして、会社で浮いた存在ではないだろうか。
といっても、社員たちは露骨に嫌な顔を出すことはなかった。
鈴木は食堂の会計をすませて、監視しやすい場所を探す。
ポケットの携帯電話が震える。
二階堂からだった。
鈴木は電話をとる。
「鈴木君、そこはもういいから。 すぐに事務所に来て。 伝えたいことがあるの」
「分かりました。 二十分したら着きます」
鈴木は電話を切り、早足で向かう。
事務所につくと二階堂だけだった。
探偵は座るように促す。
鈴木は腰をおろす。
「伝えたいこととは何です?」
「谷川由伸は同僚殺しの犯人よ」
「それはどういうことですか?」
彼にはさっぱり分からなかった。
「私は資料に目を通して、谷岡刑事に現場に入るように頼んだの。 むこうは承諾してくれて、検分したわ。 現場は同僚の部屋なの。 同僚は1LDKの部屋に住んでいて、物は少ない。 資料どおりに180cm以上であることは分かり、食器棚の裏に複数の毛が落ちていた」
「それが谷川由伸のものだったってことですね」
二階堂は首を横にふり、口をひらく。
「茶色の毛よ。 隣に犬連れの人物は来なかったかと訊いたら首を縦にふったわ。 愛犬“ペロ”の毛と断定できるの。 同僚はペットを飼っておらず、被害者の家に谷川由伸だけが犬を連れてくるのが目撃されている」
「その“ペロ”とやらはどこにいるのでしょう」
「それね、谷川家に帰っていた様子はないらしいの」
鈴木は内心つぶやく ── そういえば、谷川光からは犬の話題は出なかったな。 家族としてとらえていないのか。
「で、明日はとうとう行くのですね」
もちろんよ、と答えた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~
気の言
ミステリー
いたって平凡な男子高校生の玉宮香六(たまみや かむい)はひょんなことから、中学からの腐れ縁である姫石華(ひめいし はな)と入れ替わってしまった。このまま元に戻らずにラブコメみたいな生活を送っていくのかと不安をいだきはじめた時に、二人を元に戻すための解決の糸口が見つかる。だが、このことがきっかけで事態は急展開を迎えてしまう。
現実に入れ替わりが起きたことを想定した、恋愛要素あり、謎ありの空想科学小説です。
この作品はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
不思議の街のヴァルダさん
伊集院アケミ
ミステリー
仙台市某所にある不思議な古書店で、時折繰り広げられる、小さな事件。「死者の書のしもべ」を自称するシスターの格好をした中二病の女性と、彼女を慕う平凡な大学生による、日常系サスペンス? です。なお、この小説は、世間知らずのワナビの女の子が書いてる小説という設定です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
シグナルグリーンの天使たち
聖
ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。
店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました
応援ありがとうございました!
全話統合PDFはこちら
https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613
長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
小説探偵
夕凪ヨウ
ミステリー
20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。
男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。
そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。
小説探偵、と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる