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森の事件
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近寄ってきて「あなたたちが頼まれた方ですね?」
二人は首を縦に振った。
男性の顔は額に二本のしわが入っていて、目の下にくまができている。
また、高い鼻に鼻の穴は大きく勇ましい印象を与える。
表情は少し疲れているようにみえる。
格好は白いTシャツにジーンズ生地のハーフパンツだ。
自然暮らしをしていそうな人だ ── 二階堂はそういう印象を受けた。
男性は軽く自己紹介を始めた。
名前は田中ゴン太。 年齢は五十で無職だ。 働かなくても大丈夫であり、二棟の投資用の建物があるという。
その建物から不動産収入を得ていて、この小屋で暮らしている。
妻が病気で数年前に亡くなり、息子を育てる上で仕事でなかなか時間を取れなくなってすれ違いの時間が多くなった。
そこで、一人息子と過ごす時間を大切にしたいと合間の時間を使って投資していた不動産だけで生きていくことを決め、仕事をやめた。
「折角、二十歳までちゃんと育ててやろうとしたら息子は死んでしまったんだ」 田中は悲しげな表情を浮かべた。
「息子さんとあなたの人間関係を教えてもらえますか?」鈴木はたずねた。
「ほとんど人間関係は俺はありませんよ。 息子も同じだと思います。息子は友達をあんまりこっちに連れてきたことはない。 森の中で暮らしているというと変わった目で見られるから連れてこなかったかもしれない」
「では、恨まれるようなことはないですか? あと、何か変わったことはありませんでしたか?」
ないな、変わったこともない。 こんなところに暮らしているから恨まれる理由はないんだと首を横にふった。
「確かに、人間関係の煩わしさはなさそうですね」
横で二階堂はしゃがみ聞き耳を立てながら、木の棒で土をキャンバスにして落書きをする。
田中はちらっと彼女を見て、不思議そうな顔をしている。
二階堂は落書きを止めて訊いた。
「事件があった日はどうされていましたか?」
「ええ、その日なら寝ていました。 次の日に目覚めたら息子が亡くなっていたのを見つけたんだ。 時刻は7時頃です」
彼女は田中の唇の動きと手のふり、足の動きをみた。
特に変わった様子はなく、息子が死んだときに何もしてあげらなくて後悔している様子が窺える。
「私は自然と触れあう機会がなくて、薪割りをしてみたいのですが・・・」 二階堂は立ち上がった。
ええ、いいですよと斧を持って案内した。
田中は説明して、薪割りの手本をみせる。
二人は続いてやっていく。
最初は上手く割れなかったが、コツをつかみどんどんと綺麗に真っ二つに割れた。
「どうです? 楽しいでしょう、自然も悪くないと感じませんか」
「とてもいいです。 私も将来自然に囲まれた一軒の家ぐらいは持ちたいものですね」
鈴木も同意して、笑顔で答えた。
「あの・・・ 女性探偵というのは初めて見ました。 いるんですな 」 田中は言いにくそうに彼女へ顔を向ける。
「そりゃあ、いますよ。 比率が少ないのかもしれませんね。 小説や映画、ドラマのイメージかもしれません。 私自身は変わった理由でやっています」
いつか聞かせてもらえるといいですねとぽつりとつぶやく。
二階堂は内心ため息をはく ── ハァー、またこの話か。 女性探偵への好奇心な目はいつ消えるのだろう。
二人は田中にお礼を言って、殺人現場へと向かう。
鈴木は田中がいないのを確認して、口を開く。
「さっきの行動は意味があってやったのでしょう。 この足跡を判定するために」
「鋭いわね、鈴木君。 その訳もあるけど、薪割りをやってみたかったの」
「やっぱり、あなたは変わっていますね」
「そうかしら、褒め言葉として受け取っておくわ」
二人は首を縦に振った。
男性の顔は額に二本のしわが入っていて、目の下にくまができている。
また、高い鼻に鼻の穴は大きく勇ましい印象を与える。
表情は少し疲れているようにみえる。
格好は白いTシャツにジーンズ生地のハーフパンツだ。
自然暮らしをしていそうな人だ ── 二階堂はそういう印象を受けた。
男性は軽く自己紹介を始めた。
名前は田中ゴン太。 年齢は五十で無職だ。 働かなくても大丈夫であり、二棟の投資用の建物があるという。
その建物から不動産収入を得ていて、この小屋で暮らしている。
妻が病気で数年前に亡くなり、息子を育てる上で仕事でなかなか時間を取れなくなってすれ違いの時間が多くなった。
そこで、一人息子と過ごす時間を大切にしたいと合間の時間を使って投資していた不動産だけで生きていくことを決め、仕事をやめた。
「折角、二十歳までちゃんと育ててやろうとしたら息子は死んでしまったんだ」 田中は悲しげな表情を浮かべた。
「息子さんとあなたの人間関係を教えてもらえますか?」鈴木はたずねた。
「ほとんど人間関係は俺はありませんよ。 息子も同じだと思います。息子は友達をあんまりこっちに連れてきたことはない。 森の中で暮らしているというと変わった目で見られるから連れてこなかったかもしれない」
「では、恨まれるようなことはないですか? あと、何か変わったことはありませんでしたか?」
ないな、変わったこともない。 こんなところに暮らしているから恨まれる理由はないんだと首を横にふった。
「確かに、人間関係の煩わしさはなさそうですね」
横で二階堂はしゃがみ聞き耳を立てながら、木の棒で土をキャンバスにして落書きをする。
田中はちらっと彼女を見て、不思議そうな顔をしている。
二階堂は落書きを止めて訊いた。
「事件があった日はどうされていましたか?」
「ええ、その日なら寝ていました。 次の日に目覚めたら息子が亡くなっていたのを見つけたんだ。 時刻は7時頃です」
彼女は田中の唇の動きと手のふり、足の動きをみた。
特に変わった様子はなく、息子が死んだときに何もしてあげらなくて後悔している様子が窺える。
「私は自然と触れあう機会がなくて、薪割りをしてみたいのですが・・・」 二階堂は立ち上がった。
ええ、いいですよと斧を持って案内した。
田中は説明して、薪割りの手本をみせる。
二人は続いてやっていく。
最初は上手く割れなかったが、コツをつかみどんどんと綺麗に真っ二つに割れた。
「どうです? 楽しいでしょう、自然も悪くないと感じませんか」
「とてもいいです。 私も将来自然に囲まれた一軒の家ぐらいは持ちたいものですね」
鈴木も同意して、笑顔で答えた。
「あの・・・ 女性探偵というのは初めて見ました。 いるんですな 」 田中は言いにくそうに彼女へ顔を向ける。
「そりゃあ、いますよ。 比率が少ないのかもしれませんね。 小説や映画、ドラマのイメージかもしれません。 私自身は変わった理由でやっています」
いつか聞かせてもらえるといいですねとぽつりとつぶやく。
二階堂は内心ため息をはく ── ハァー、またこの話か。 女性探偵への好奇心な目はいつ消えるのだろう。
二人は田中にお礼を言って、殺人現場へと向かう。
鈴木は田中がいないのを確認して、口を開く。
「さっきの行動は意味があってやったのでしょう。 この足跡を判定するために」
「鋭いわね、鈴木君。 その訳もあるけど、薪割りをやってみたかったの」
「やっぱり、あなたは変わっていますね」
「そうかしら、褒め言葉として受け取っておくわ」
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