犯罪者と博士

ナマケモノ

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犯罪者

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 私はうなずいたものの困っていた。
 彼は心を開いてくれているが、生い立ちを聞かなければ配慮はできないのだ。
 しかし、生い立ちを語らせたときに抑圧していた記憶を呼び起こし、精神に異常をきたす場合がある。
 ここが難しいところだ。
 聞く側は危ういとどこかで判断しなければならない。
 どこで判断するかは聞く側に委ねられる。
 荒療治になるが、わざと抑圧していた記憶を呼び起こす方法はある。
 この方法は本人のメンタルによるものになるのだ。
 リスクは大きいのである。
 私は荒療治のやり方はやらない。
 私はカウンセラーではないからだ。
 井岡は近寄る。
「話は終わりましたか?」
「あぁ、終わったよ」




「僕はいないほうがいいですかね。 国仲刑事は僕をあまり良くみていないようですけど・・・」
「国仲さんを責めないでほしい。 彼女は一組織の人間だ。 彼女は彼女なりに対処しようとしている。 君は私のわがままで助手としていてもらいたい。 それは君が承諾するかになるがね」
「国仲刑事のことは分かりました。 助手の件はもちろんいいですよ」
 この子は何か変だ。
 何だろうか。 人間としておかしくないのだが、得体の知れないものがある。
 「君の見解を話してもらえないだろうか」
「わかりました。 資料がないため表面的にみての見解になりますがよろしいですね」
 それは参考になる意見だから続けてくれ、私は言う。
「L字型になっているのは置いていたと考えられます。 顔の左半分がひどい様になっているのはうちつけた、または高いところを落とされた」




「なかなか意見だ。 続けてくれ」
「落とされた場合は体は複数の骨折をしているといえます。 その2つの点はどちらも感情があるのではないかと推測します」
 本当にただの大学生か。
 見ただけでここまで述べることができるとは。
 助手として雇って正解だ。
「君は前回の件はみたよね? つながりはあると考えるか」
「表面的ではありますが、つながりはないでしょう。 どちらも同じ手口ではないためです」
「なるほど、同一犯ではないとするわけだ。 うん、見方としてはありだ」
 私は偏った考えをしているようだ。
 物事を多面的にみなくてはならない。
 犯罪者の頭を覗けないだろう。
 国仲は割って入ってきた。
「うん、面白い子ね。 井岡君は何か本でも読んだの? じゃないとここまで述べられないでしょう」




 井岡は後頭部をさわり、答える。
「その・・・ 本は読んでいないです。 なんとなく、想像力を働かして述べてみただけです」
「本当に!? 博士も同じようなことを言っていたわね。 似たもの同士かもしれないわ」
 私は過去に変な発言をしたようだ。
 傍で聞くと恥ずかしいものである。
 彼女が変わっていますね、と言ったのは今になって納得できる。
 まだ井岡に変化はない。
 彼は涼しい顔をしている。
 端からみれば、立派な青年と映るだろう。
「そろそろ私は帰るよ」
「博士、近くのビルをみなくていいんですか」
「いいんだ。後で知らせてくれ 」
 私は足を進める。
 背後に井岡がいる。
 彼は無言だ。
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