目覚めた男

ナマケモノ

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目覚めた男

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 裏では人間がゆっくりしていただろう。
 ロボットが動かなくならない限り、待機しているだけになる。
 目の前のホテルマンの言うことも理解できる。
 待機している時間が長いことだろうからやることになったら、できないかもしれない。
「人間がやっている病院はないのですか」
「ありますよ。 中にはロボットが信用できないと言う人がいましてね、複数あります。 だけど、機械のほうが成功率は高いのです。 データでは人間より機械のほうが実績をあげているのですよ」
「しかし、最後は人間がやらなければいけないと思いますが」
「その問題が常にニュースで取り上げられていますね。 なんとか機械をどれだけ長く正確に保たせるか」
 彼と僕はこの時代のことについて話し合う。
 といっても彼だけが一方的に喋っている状況だった。
 便利な世の中になったものの不安があるのだ。
 ロボットを信用しないというのは一部はいる。
 その人たちはロボットをなくそうと訴えるものまでいる。




 中にはいろんなドラマがあっただろう。
 ロボットによって助からなかった命があったり、単に自分たちの行き場を失うのが怖いから、ロボットが暴走して人間を服従させるのではないかと過激な考えをしている人たちがいるんじゃないだろうか。
 僕は目覚めてから新鮮な気持ち、好奇心ばかりに目がいっていたが、見方が変わってきている。
 人間は常に欲している。
 人によってそれぞれ違う。
 だけど、楽したい気持ちは共通しているのではないか。
 「話していて思ったが機械に感情はあるのかい?」
「ないですね。 研究者に感情を入れようと考え方をする人はいますけど、実践段階にいっていません」
「もしもの話だ。 感情を入れたら機械は人間を支配しようとする考えは成り立つかもしれないじゃないか」
「それは成り立つかもしれませんね。 SF映画みたいに共存する未来だってあるでしょう」




 僕はネガティブな思考をしているのか。 
 目の前のホテルマンみたいにポジティブ思考がこの話題でできたら、どんなに気楽だろう。
 感情を入れるということは人間により近くなることだ。
 感情を入れるプロセスはどうするか省くとして、支配欲の強いものや欲の強いものが生まれる。
 反対により良い人間の性格のもったものが生まれる。
 人に思いやり、親切心、善意をもったものだ。
 「君のいう通りに今はなっているね。 もしもの考えはしないのかい」
「私は幼いころからずっと機械が人間と共存しているのを見てきています。 といっても事故が度々起きていることは知っていますね。 環境によるものでしょう。 だから私はポジティブに考えています」
 あれ? 2010年とはどんなだっただろうか。
 病院は記憶はなかったが、2010年と頭では違うことが分かったというのに。
 おかしい。 生まれたときから目覚める前の時代背景の記憶もないのか。




 データでは2010年に治療したことになっているが、本当にそうなのだろうかと疑いたくなってきた。
 だめだ、混乱している。
 思い出を思い出せないだけで人はこんなに混乱するのか。
 僕はホテルマンを帰して、店へ向かう。
 記憶の整理と今日起きた出来事を記すために紙を探す。
 A4サイズの紙が40枚入った紙を買った。
 ホテルに戻り、ホテルにあるボールペンを借りて書いていく。
 今日は時代背景を少しと自分のことを知っただけだ。
 明日は長谷川博士の子孫のところへ行こう。
 僕は白いシーツの敷かれたベッドで眠る。
 カーテンの隙間から朝日が射しこむ。
 時計は8時を指す。
 起きてみて思い出すことはない。
 まだ記憶が戻らないようだ。
 いつになったら、戻るのだろう。
 不安が胸にこみあげる。
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