目覚めた男

ナマケモノ

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目覚めた男

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 病院からでると大きな広場がある。
 真ん中に噴水があって、三段になっている水のたまり場がある。
 僕は近くのベンチに座った。
 僕にお礼を言った人物とは誰だろう。
 お礼を言った人物は3日前に退院している。
 その人物は自分と同じく病気に悩まされ、完治したのだ。
 お礼を言うのは僕ではなく、長谷川博士ではないだろうか。
 一体、自分はどんな影響を世の中に与えたというのだ。
 考え事をしているとひとりの少女が近寄る。
「お兄さん、あの銅像の人でしょう?」 噴水から少し離れたところにある銅像を指差す。
 見てみると顔はそっくりだ。
 近づいて、端末でみた画像を思い出しながら照らし合わせる。
「うん、その通りだよ」
「ふーん、歴史の教科書に載っていてね。 みんなね、習うんだよ」
「僕はそんなに有名人なのかい?」
 少女は首を縦にふる。



 少女からなぜか学校での話を聞かされていた。
 話によると授業はつまらなく他のことを習いたいらしい。
 視界に30代くらいの女性が走ってきて、少女に近寄って言った。
「どこに行っていたの? 心配したのよ」
「あのね、銅像の人と話していたの」
 少女の母親は僕と目が合うと、幽霊をみたかのように顔は青ざめて倒れた。
 少女は母親の体を揺する。
 僕がこの時代に生きていることがおかしいのか。
 困惑していた。
 少女は一生懸命にベンチに座らせて見守っていた。
 立場が逆転している。
 少女が母親で、母親は娘のようだ。
 母親は目覚めて、ぼんやりとしている。
 何があったか整理しているようにみえた。
「お母さん、心配したんだよ」
「ごめんね、幽霊をみたような気がしたから」




 「お母さんが言っているのはこの人のこと?」 僕を指差す。
 母親はヒッと驚き、今度は倒れなかった。
「失礼ですけど・・・ あなたは中村守さんですよね」
「ええ、その通りです」
「えっーと、娘の話し相手になってくれてありがとうございます」
 母親は深々と頭を下げた。
 彼女は娘の手をとり、帰っていく。
 あることに気がつく。
 僕の家はどこだろう? 
 どこか泊まる場所を見つけなければならない。
 足を進めて、地図もないままいく。
 さっきから視線が集まる。
 こそこそ聞こえてくる。
 あの人は中村守じゃないか、銅像の人ではないか、歴史の教科書で習う人だなどと聞こえてきた。
 別に声をかけてくることはない。
 服装は90年前とは変わらないようだ。




 変わったのは車や道路、携帯電話、飛行機などだ。
 飛行機は1、2台くらいしか見ない。
 車が空を飛ぶことができるからだろう。
 道路は車の通るところにレーンらしきものが敷かれている。
 車にタイヤはついていない。
 地面から数十㎝ほど浮いている。
 数分が経ち、ホテルらしき建物に入った。
 受付の人に訊いた。
「空いている部屋はありますか?」
 受付の人はさっき会った母親と同じように青ざめた顔でみた。
 青ざめた顔から笑顔に変わる。
 ホテルマンとしての染みついた対応力がとっさに出た。
「あ、あの2階と3階が空いていますが、どうなさいますか?」
 ホテルマンは表情は完璧なのだが、声は震えている。
 内心は怯えているのだ。
「2階の202号室でお願いします。 それと1、2週間ぐらい泊まりたいんですけど、大丈夫ですか?」
 ホテルマンはうなずき、端末に打ちこむ。
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