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目覚めた男
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ロボットは扉を開けて、中に入り端末をさわる。
「あなたが一番知りたかったことでしょう。 アクセスできるように致しました。 それと名前を訊いていないのですが、あなたに伝言があります。 あなたのおかげで助かった、と以上です」
「僕の知り合いですか?」
「いいえ、3日前にここを出ていたことは確かです」
ロボットはお辞儀をして、部屋を出ていく。
僕はひとりになって、お礼をされた人物に興味はあったが自分のことを知りたかった。
端末にふれると“クリア”と文字が出た。
僕の名前は中村守というらしい。
画面に中村守の画像が表示される。
二重瞼にたれ目であり、鷲鼻だ。
唇は上下とも薄い。
自分の顔にさわった。
手の感触だと画像のとおりだ。
読み進めていくと眠る前の僕のデータがある。
まず、彼女の名前は早川由実。
2007年に大学1年のときに授業で一緒になり、後に回数を重ねていくうちに友人となる。
友人の関係が続き、大学3年の頃に恋人へ変わった。
彼女が亡くなったのは2078年だ。
歳は90才ということは、僕の体は20代なのか。
両親は生きていないだろうけど、調べなくては。
父は地方公務員に就いていた。
名前は秀太。
母は父と職場で出会い、専業主婦として亡くなるまでいたようだ。
これまでデータを読んで、ピンとくるものはない。
まるで別人の人生を覗いているみたいだ。
データから分かることは感情的なものは含まれていない。
あるのはその時に起きた出来事だけ。
そのとき、どう思ったという人間らしいデータはないのだ。
これでは自分がどんな人間だったか思い出せない。
訊こうにも訊けないみんな亡くなっているはず。
僕を治療した長谷川博士のデータを開こう。
当時は僕にやった治療法は賛否両論あったらしい。
賛成派は長谷川博士につき、研究を進めていく。
完成した治療法には問題があった。
ネズミでの実験は成功しているものの人間ではまだやっていなかった。
そこでたまたま近くにいた中村守、つまり僕が選ばれたのだ。
長谷川博士は末期のガンで助かる可能性のないものを助けることにした。
治療法とはカプセルの中に患者を入れて治すやり方。
カプセルの中に患者の合う治療薬を投入する。
患者は目覚めたいときに希望を言って、そのときに目覚めさせる。
カプセルに入ったものは眠りながらも治療を受けて、目覚めたときには完治しているということだ。
注意点がある。
長く眠りすぎれば、ある症状が出る。
記憶を長時間失うことになるのだ。
こればかりは実際の症例がないため分からないと記されている。
だから、僕は記憶を失っているのか。
納得がいく。 この長時間というのがどれくらいの時間なのだろうか。
当時の自分は何を思っていたのだろう。
疑問が浮かぶ。
もう知れることはない。 そう判断して、部屋を出る。
白い景色ばかりだ。 治療されていたということは病院にいたんだ。
廊下を歩くと、人間なのかロボットか区別できないものばかり。
中に早川由実の姿をしたロボットが混じっていた。
歩いてどれくらいのときが経っただろうか。
長い一本道の廊下を歩いている。
出口がみえない。
あるのは左右に扉があるだけ。
扉の向こうで自分と同じようにカプセルの中で治療を受けているのだろうか。
僕がいた2010年で知る病院とは違う。 それは確かだ。
「あなたが一番知りたかったことでしょう。 アクセスできるように致しました。 それと名前を訊いていないのですが、あなたに伝言があります。 あなたのおかげで助かった、と以上です」
「僕の知り合いですか?」
「いいえ、3日前にここを出ていたことは確かです」
ロボットはお辞儀をして、部屋を出ていく。
僕はひとりになって、お礼をされた人物に興味はあったが自分のことを知りたかった。
端末にふれると“クリア”と文字が出た。
僕の名前は中村守というらしい。
画面に中村守の画像が表示される。
二重瞼にたれ目であり、鷲鼻だ。
唇は上下とも薄い。
自分の顔にさわった。
手の感触だと画像のとおりだ。
読み進めていくと眠る前の僕のデータがある。
まず、彼女の名前は早川由実。
2007年に大学1年のときに授業で一緒になり、後に回数を重ねていくうちに友人となる。
友人の関係が続き、大学3年の頃に恋人へ変わった。
彼女が亡くなったのは2078年だ。
歳は90才ということは、僕の体は20代なのか。
両親は生きていないだろうけど、調べなくては。
父は地方公務員に就いていた。
名前は秀太。
母は父と職場で出会い、専業主婦として亡くなるまでいたようだ。
これまでデータを読んで、ピンとくるものはない。
まるで別人の人生を覗いているみたいだ。
データから分かることは感情的なものは含まれていない。
あるのはその時に起きた出来事だけ。
そのとき、どう思ったという人間らしいデータはないのだ。
これでは自分がどんな人間だったか思い出せない。
訊こうにも訊けないみんな亡くなっているはず。
僕を治療した長谷川博士のデータを開こう。
当時は僕にやった治療法は賛否両論あったらしい。
賛成派は長谷川博士につき、研究を進めていく。
完成した治療法には問題があった。
ネズミでの実験は成功しているものの人間ではまだやっていなかった。
そこでたまたま近くにいた中村守、つまり僕が選ばれたのだ。
長谷川博士は末期のガンで助かる可能性のないものを助けることにした。
治療法とはカプセルの中に患者を入れて治すやり方。
カプセルの中に患者の合う治療薬を投入する。
患者は目覚めたいときに希望を言って、そのときに目覚めさせる。
カプセルに入ったものは眠りながらも治療を受けて、目覚めたときには完治しているということだ。
注意点がある。
長く眠りすぎれば、ある症状が出る。
記憶を長時間失うことになるのだ。
こればかりは実際の症例がないため分からないと記されている。
だから、僕は記憶を失っているのか。
納得がいく。 この長時間というのがどれくらいの時間なのだろうか。
当時の自分は何を思っていたのだろう。
疑問が浮かぶ。
もう知れることはない。 そう判断して、部屋を出る。
白い景色ばかりだ。 治療されていたということは病院にいたんだ。
廊下を歩くと、人間なのかロボットか区別できないものばかり。
中に早川由実の姿をしたロボットが混じっていた。
歩いてどれくらいのときが経っただろうか。
長い一本道の廊下を歩いている。
出口がみえない。
あるのは左右に扉があるだけ。
扉の向こうで自分と同じようにカプセルの中で治療を受けているのだろうか。
僕がいた2010年で知る病院とは違う。 それは確かだ。
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