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しおりを挟む「あ、あなた達何なんですか!警察呼びますよ!」
匠海を支え毅然と対応したいが、いかんせん金属バットで殴り込みに来た青年に会うのは初めてだ。心臓が恐怖で今にも壊れそうだが、匠海を前に弱音を吐いていられない。自分は彼より年上だし、何より彼はここで、ずっとキヨエを守ってくれていた。
「どうぞどうぞ、警察でも何でも呼んで下さいよ!」
そう言いながら、男の一人がバットで電話を叩きつけた。貴子は思わず悲鳴を上げた。こんな暴力にあった事がない。
「お姉さん、僕達はこれでも被害者なんですよ」
「え?」
「こいつさえ居なきゃ、俺達は警察に捕まる事無かったんだよ!」
またテーブルを蹴り飛ばされ、貴子は悲鳴を上げて頭を抱えた。
「や、やめて下さい!これ以上店を壊さないで!」
「じゃー僕達にそれ相応の事して貰わないとー」
「な、何を」
「慰謝料頂きたいなー。まさか、こんな田舎に居ると思わなかったからさー、探すの苦労したんだよ」
「そ、そんな、彼が何したっていうんですか…!」
一人がしゃがみ、貴子と目線を合わせてくるので、貴子は怯えて身を引いた。
「ずっと仲良しだったのにさー、ばーさんの鞄ひったくった時邪魔しやがってさ」
「え、」
「あれのせいで大変だったんだよねー。金は無いわ警察に捕まるわでさー、匠海君は上手く逃げてたみたいだけどー」
思わず匠海に目を向けると、彼は心当たりがあるのか視線を逸らしたまま、何も言わない。
「だからさー、仲間裏切って一人だけ楽しようとか、ふざけんなって話じゃない?」
にこりと笑って、男は貴子の肩を押し退け、後ろの匠海に腕を伸ばす。
「ま、待って!やめて!」
貴子は咄嗟にその腕を押し退け、匠海の前に体を入れ、匠海を背に庇った。
「邪魔したって事は、匠海君、鞄取ってないんだよね?」
「え?」
「匠海君のお陰で、ひったくり失敗したんでしょ?そういうの逆恨みって言うんです!うちの大事な…か、家族に手を出さないで!」
過去に何があろうが、貴子は今の匠海しか知らない。匠海はキヨエの大事な店を守ってくれている、キヨエを側で支えてくれている、それは最早家族も同然だ。
匠海は驚いた様子で、震える貴子の背中を呆然と見つめた。目の前の男達が貴子の発言に怒りを覚えたのは、言うまでもない。
「お姉さーん、今の状況わかってるー?」
床にバットが振り下ろされ、床に響く金属音に貴子はびくりと震えたが、それでも貴子は匠海の前からどかなかった。
「あ、あなた達こそ、こんな事してどうなるか分かってるでしょうね!」
「ハッ!あんたに何が出来るって言うんだよ!」
いよいよ自身目掛けて振りかざされるバットに、貴子は覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った。
「やめろ!」
しかし、匠海も黙って見ていられる訳がない。すかさず匠海が貴子の前に飛び出すと、貴子ははっとして顔を上げた。
「ダメ!」
ガッと鈍い音がして、立ち塞がった匠海がバットを左腕で受け止めたのが分かった。だがその直後、何故かその向こう、後ろに居た二人の男が次々と悲鳴を上げ倒れていった。
バットを振り下ろした男が何事だと振り返ると、店の入り口に、大柄な男が立ち塞がっていた。貴子はその人物を見留めると、ホッとして表情を緩めた。
「いっちゃん!」
「よぉ、久しぶりだな貴子」
そう言うなり大男がバットを掴むと、そのまま男の腕を捻り上げてしまった。
「いっ…何だよお前!」
「うちの連れを随分可愛がってくれたみたいだなー兄ちゃん」
「な、元はと言えばこいつが!」
「俺の連れがなんだって?」
「ひ、」
大男が顔を近づけて凄めば、先程までの意気はどこへやら、バットを手にした男は悲鳴を喉奥に詰まらせ、結局腕を振りほどく事も出来ず、へたりと座り込んでしまった。
「…重井さん、どうして」
男を解放しながら、匠海の言葉に大男は人の良い笑顔を浮かべる。彼は、重井一輝。キヨエの隣に住む重井の孫で、元ラガーマンだ。
「いやー、店が酷い事になったって聞いてさ、もしまだ居たら差し入れ持ってこようと思って。来て良かったよ、まさかこんなお客が来てるとはな。お前ら怪我ないか?」
その言葉に、貴子ははっとして匠海の腕を取った。バットを受け止めた匠海の左腕は、真っ赤に腫れ上がっていた。
「大事な腕なのに!どうして飛び出したりしたの!」
「…貴子さんだって、同じじゃないですか」
思わず目を合わせて固まる貴子に、一輝の笑い声が店を通り越し夜空にまで響いていく。
「わ、笑わないでよ、いっちゃん!」
「いやぁ、仲が良いな、お前ら」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!救急車!」
「そんな重症じゃないから」
「でも!」
そんな言い合いをしている二人に、一輝は一先ず安堵した様子だ。
間もなくして警察が到着し、匠海は病院へと向かう事となった。
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