19 / 76
19
しおりを挟むそして、それから一週間後の現在。多々羅の取り戻せた自信は、早くも下降傾向である。
愛についても、考えてみれば多々羅は表面上の事しか知らない。
家事が出来ない事、方向音痴な事、不思議な瞳を持っている事、そのせいで体に影響を及ぼす事。その綺麗な瞳を、自分では悪いものと思っている事。
多々羅がいくらその瞳が綺麗だと言っても、愛の心には届かない。愛は、愛自身に対してどこか投げやりに見える。それが多々羅にはもどかしかった。どんな理由があろうと、物の化身が見えるその瞳は、誰かの力になれる誇れる物のように多々羅は思うからだ。
でもきっと、それだって愛には伝わらない。二人の間には、愛が作った壁がある。
その証拠に、探し物の仕事について、多々羅は詳しい事は知らない。パイプの事だって、今日、初めて知った。
そして、愛はよく、嫌ならいつ仕事を辞めても良いという。
「……」
落ち込みそうになり、いや、まだまだこれからだと、内心首を振る。だってまだ、再会して一週間しか経っていない。分からない事があるのも当然だと、多々羅は自分を勇気付けた。
スーパーで買い物を済ませ、二人は夜道を歩いていく。不足した食材等を買い、今日は遅くなったので、お弁当を買って済ませることにした。
「気になってたんですけど、物って勝手に移動出来るんですか?」
彩のネックレスの事だ。鞄から抜け出し、建物の裏側まで、どうやって移動したのだろう。
「まぁ、化身になれたら、ある程度はな。だけど自分の力だけじゃ、そんなに遠くへは移動出来ない。今回の場合は、鞄から出る位が精一杯だったと思う。鞄から出た後は化身の姿となって、猫や鳥を呼んで運ばせたんだろう」
「動物と話せるんですか?」
「そうみたいだよ」
へぇ、と頷きながら、化身になって、物はどんな風に動くのだろうと想像してみる。テーブルの上に置いていたと思った物がたまに床に落ちているのは、気づかぬ内に落としてしまったのではなく、物が動いた証なのだろうか。
いくら考えても分からないが、そうやって移動したから、あのネックレスはあんなに狭く暗い茂みに居たのだろう。
「そういえば、依頼って、幾らで引き受けているんですか?」
「一回三千円」
「…このペースで店やっていけるんですか?」
多々羅が来て一週間経つが、依頼人は彩一人だ。
「問題ない。探し物屋の仕事は、他にもあるから。本来は、そっちがメインなんだ」
そっちがメイン。その言葉に多々羅は目を瞬いた。宵ノ三番地とは、探し物をする為の店だと多々羅は思っていたので、それだけではなかったのかと、軽く衝撃を受けていた。
そんな話をしていると、店についた。ドアに鍵を回して開ける。暗い店内を進み、二人は二階へ向かった。リビングの明かりをつけると、愛はカレンダーへ目を向けた。多々羅は、やはり聞かずにはいられなくて、愛の背中に声を掛けた。
「メインの仕事って?どんな仕事なんですか?」
好奇心を疼かせて尋ねてみれば、予想通りに溜め息が返ってきた。
「多々羅君には出来ない仕事だから、話す必要もないだろ」
「そんな言い方…出来なくても、こういった仕事もありますよって、教えてくれても良いじゃないですか」
食い下がる多々羅に、愛は疲れたように頭を振り、多々羅を振り返った。
「じゃあ、言い方を変える。その内辞めたいと言い出すだろうから、多くを語りたくない」
それには多々羅はムッとした。きっと聞いても教えてくれないだろうなとは思っていたが、毎回辞めさせようとするのは聞いていて面白くない。こんなにも力になりたがっているのに、毎回拒否されれば、さすがに傷つくし腹が立つ。
「どうしてそう決めつけるんですか、辞めませんよ!俄然、興味津々です!」
「多々羅君は、分かってないんだ。この仕事は危ない事もある。俺の目を見ろ、気持ち悪いだろ」
「嫌味ですか?綺麗ですよ」
「そうじゃなくて、」
そこへ、ブーっと、ブザーが鳴った。店を閉めている時に活躍するこの家のインターホンだ。店の扉の傍らにある、白く丸いボタンがあるのだが、それがこの家のインターホンだ。
「珍しい、こんな時間に。お客さんですかね」
「…タイミング悪いな、あいつ」
溜め息を吐いた愛に、多々羅はピンとひらめいた。
「もしかして、仕事ですか?」
「…どうせついてくるだろうから、紹介しておく。ちょっと店に来てくれ」
重たい足取りの愛と違って、多々羅は意気揚々と愛の後をついて行った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
八天閣奇談〜大正時代の異能デスゲーム
Tempp
キャラ文芸
大正8年秋の夜長。
常磐青嵐は気がつけば、高層展望塔八天閣の屋上にいた。突然声が響く。
ここには自らを『唯一人』と認識する者たちが集められ、これから新月のたびに相互に戦い、最後に残った1人が神へと至る。そのための力がそれぞれに与えられる。
翌朝目がさめ、夢かと思ったが、手の甲に奇妙な紋様が刻みつけられていた。
今6章の30話くらいまでできてるんだけど、修正しながらぽちぽちする。
そういえば表紙まだ書いてないな。去年の年賀状がこの話の浜比嘉アルネというキャラだったので、仮においておきます。プロローグに出てくるから丁度いい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる