瀬々市、宵ノ三番地

瀬々市愛、二十六才。「宵の三番地」という名前の探し物屋で、店長代理を務める青年。
右目に濁った翡翠色の瞳を持つ彼は、物に宿る化身が見える不思議な力を持っている。

御木立多田羅、二十六才。人気歌舞伎役者、八矢宗玉を弟に持つ、普通の青年。
愛とは幼馴染みで、会って間もない頃は愛の事を女の子と勘違いしてプロポーズした事も。大人になって再会し、現在は「宵の三番地」の店員、愛のお世話係として共同生活をしている。


多々羅は、常に弟の名前がついて回る事にコンプレックスを感じていた。歌舞伎界のプリンスの兄、そう呼ばれる事が苦痛だった。
愛の店で働き始めたのは、愛の祖父や姉の存在もあるが、ここでなら、自分は多々羅として必要としてくれると思ったからだ。

愛が男だと分かってからも、子供の頃は毎日のように一緒にいた仲だ。あの楽しかった日々を思い浮かべていた多々羅だが、愛は随分と変わってしまった。

依頼人以外は無愛想で、楽しく笑って過ごした日々が嘘のように可愛くない。一人で生活出来る能力もないくせに、ことあるごとに店を辞めさせようとする、距離をとろうとする。

それは、物の化身と対峙するこの仕事が危険だからであり、愛には大事な人を傷つけた過去があったからだった。
だから一人で良いと言う愛を、多々羅は許す事が出来なかった。どんなに恐れられようとも、愛の瞳は美しく、血が繋がらなくても、愛は家族に愛されている事を多々羅は知っている。

「宵の三番地」で共に過ごす化身の用心棒達、持ち主を思うネックレス、隠された結婚指輪、黒い影を纏う禍つもの、禍つものになりかけたつくも神。
瀬々市の家族、時の喫茶店、恋する高校生、オルゴールの少女、零番地の壮夜。

物の化身の思いを聞き、物達の思いに寄り添いながら、思い悩み繰り返し、それでも何度も愛の手を引く多々羅に、愛はやがて自分の過去と向き合う決意をする。


そんな、物の化身が見える青年達の、探し物屋で起こる日々のお話です。現代のファンタジーです。
24h.ポイント 0pt
10
小説 194,382 位 / 194,382件 キャラ文芸 4,914 位 / 4,914件

あなたにおすすめの小説

宮廷の九訳士と後宮の生華

狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――

色色彩彩ーイロイロトリドリー

えい
キャラ文芸
その「色」との出会いは、衝撃だった。 大学で、植物から自然の色素を抽出する研究を続ける御影 彩人(みかげ・あやと)は、数年前に偶然目にした、ひとつの絵を忘れられずにいる。 しかし、その絵を描いた「天才画家の卵」であったはずの蘇芳 日和(すおう・ひより)が、なぜかまったく絵に関係のない学部に入学してきたことに、もやもやとしたものを感じていた。 そしてもうひとつ、彩人を悩ませる謎の怪奇現象が身の回りで起こり出す。 「色」が失われていく世界。 あるコンプレックスが元で永らく使っていなかった「力」を開放する決意をした彩人は――? ※この作品はフィクションです。史実上の人物や、話中に出ている研究等の内容につきましても創作としてのアレンジを加えておりますので、事実としての正確性を欠く場合がありますが、ご了承ください。 参考文献:「日本の色図鑑」(マイルスタッフ発行)

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

お命ちょうだいいたします

夜束牡牛
キャラ文芸
一つの石材から造り出された神社の守り手、獅子の阿形(あぎょう)と、狛犬の吽形(うんぎょう)は、祟り神を祀る神社に奉納されますが、仕えるべき主と折り合い上手くいかない。 そんな時、カワセミと名乗る女が神社へと逃げ込んできて、二対の生まれ持った考えも少しづつ変わっていく。 どこか狂った昔の、神社に勤める神獣と素行が悪い娘の、和風ファンタジー。 ●作中の文化、文言、単語等は、既存のものに手を加えた創作時代、造語、文化を多々使用しています。あくまで個人の創作物としてご理解ください。

特命機関夏目リサーチ

クライングフリーマン
キャラ文芸
「大文字伝子が行く」シリーズのスピンオフ作品です。

臨時バイト先は、“よろずや あやかし”?!

はちのす
キャラ文芸
"視える人間、諸事情あって妖怪の営む店に飛び込みます。" 怪我をした烏を助けてから、人ならざるモノが見えるようになってしまった俺は災難続き。 この厄介な力を返還するために、怪しげな店を訪ねたのだった。 でもそこには、むしろ妖怪たちの世界が広がっていて… 願いを叶える対価として、妖怪の営む万屋で臨時バイトをすることになった、視えちゃう人間のドタバタコメディ!

Birds

遠野
キャラ文芸
突如として、鳥が人を襲い始めた。 その現状を打破したのも、また鳥であった。 「初めまして、カラスです」 人の姿となったカラスと、原因究明を依頼された教授は、 事件の真相を追う。