55 / 75
55
しおりを挟む「昨日の結界を張った奴だけど、やっぱり火の玉の真犯人っぽい。猫達に聞いて回ったら、また来てたのかって言ってた。今度また火の玉出したら、噛んでやるってさ」
手巻き寿司パーティーの中、ナツメが言う。マグロがお気に入りのようで、たっぷり入れては春風やギンジに咎められていた。
「それって、火の玉がなずちゃんを襲った時も、彼もあの場所にいたって事?」
「そうなるな。あいつのせいで寝床荒らされたって、猫達も腹立ててた。近所の空き地なんだけどさ、火の玉男に火を使って追い出されたんだって。多分、偽物の火だろうけど」
マリンの言葉にナツメは頷きながら、手巻き寿司を頬張った。
「ミオちゃん達には、この事報告したの?」
ミオの名前が出て、ハクは条件反射のように顔を上げた。ミオはハクの憧れだ。
「あぁ。だけど、こっちに任せてほしいって言っておいたよ。この間の事で犯人が誰か分かった、僕らで捕まえられない相手じゃない」
春風の言葉に、皆勿論だというように頷く。分からないのは、なずなとハクだけだ。
「皆さん、犯人が誰か分かったんですか?」
「僕達、長い付き合いだからね。気配を消すような道具を使ってたみたいだけど、あの氷の結界で分かった。周囲の目も気にせずやってのけるなんて、相手も相当焦れているみたいだね」
「早く捕まえてやろうぜ!どうやって誘き出す?」
顔を上げるギンジに、春風は、まぁまぁとその熱を宥めた。
「昨日みたいな事があってはならないし…、でも早くしないと、次の手を打ってくるかもしれないよな…」
「ミオ達には証人として来て貰った方がいいんじゃないか?」
「自作自演と思われちゃうとねぇ、ミオちゃん達なら信頼も厚いし」
あれやこれやと話し合う仲間達に、フウカは改めて頭を下げた。
「すみません、僕のせいで…」
え、となずなは声を上げたが、皆は分かっているといった様子で、何を今更と笑った。
「同居人が困ってたら、助けんのは当然だろ」
「あら、ナッちゃん素直ね」
「うるせーマリン!」
「フウカには世話になってるからな、それに俺だって、俺がいるせいで犯人扱いされたわけだし…」
「あらら?ギンジ君まで可愛くなっちゃってー」
「今すぐはっ倒してやる…!このぼんくら神!」
「あ!ギンジさん、お皿ひっくり返しますから!」
立ち上がるギンジを宥めつつ、なずなも何か力になりたいと、立ち上がったついでに、拳を握ってフウカにアピールした。
「あの、私も力になりますから!どんな作戦でもバッチコイです!」
気合い十分のなずなだったが、そんななずなに春風は苦笑い、フウカは顔を顰めた。
「ダメですよ、これは僕達妖の問題です、人であるあなたには危険すぎます」
「でも、何かしたいんです!皆さんがいてくれたら問題ありませんよね?」
そう食卓を見回したが、いつも味方をしてくれるマリンも渋い顔だ。
「昨日あんな事があったばかりよ?」
「何かしたいっつーなら、いいんじゃねぇの?囮とかやってもらえば」
「ナツメ君、そんな軽々しく言わないでくれ」
フウカがさすがに咎めるが、ナツメはなんて事ない、といった顔を浮かべ、椅子の背に背中を凭れさせた。
「俺がずっと側に居ればいいだろ?しっぽ一本にして、猫っぽくしてりゃバレないって」
「それなら、僕が姿を消してついていた方が安全だよ、ナツメ君には犯人の動向を見て貰う方が良いかもね、フットワークも軽いしネットワークも広いし」
話を先に進める春風に、フウカは思わず口を挟んだ。
「待って下さい!なずなさんに、本当に囮なんてさせるつもりですか!?」
「そうよ!なずちゃんをエサにするなんて…!」
「エサ…」
何を想像したのかハクは涙目になると、はっとした様子で、震える手でなずなを抱きしめた。なずなは苦笑い「大丈夫だよ、ハク君」と、その背中を撫で擦った。
「まぁ、どうせ向こうからすぐ来るだろ。正体がバレてる事は、相手も薄々気づいてるだろうし」
ナツメはハクの反応に罰の悪い顔を浮かべたが、意見は変えないようだ。春風も、ナツメの言葉に頷いた。
「きっと動き出す筈だ。今度はしっかり人を巻き込んで、犯人を僕らに仕立てる筈だよ。狙うのは、僕らに取り囲まれてかわいそうな人の子、なずな君だろう。なずな君が、僕達が犯人じゃないと声を上げれば、犯人が今まで世間に吹聴してきた僕らの噂を、疑問に思う妖も出てくるだろうからね」
「ならいいけどな」
溜め息混じりにギンジが言う。ギンジは自分のせいで皆が犯人扱いされてる事を気にしているのだろう、それに、一度ついてしまったイメージを取り払う事が難しいと、恐らくギンジが一番分かっている。だから、春風の意見には簡単に頷けないのだろう。
しかし春風は、ギンジを見つめてニンマリする。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達
フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。
心に白い曼珠沙華
夜鳥すぱり
キャラ文芸
柔和な顔つきにひょろりとした体躯で、良くも悪くもあまり目立たない子供、藤原鷹雪(ふじわらのたかゆき)は十二になったばかり。
平安の都、長月半ばの早朝、都では大きな祭りが取り行われようとしていた。
鷹雪は遠くから聞こえる笛の音に誘われるように、六条の屋敷を抜けだし、お供も付けずに、徒歩で都の大通りへと向かった。あっちこっちと、もの珍しいものに足を止めては、キョロキョロ物色しながらゆっくりと大通りを歩いていると、路地裏でなにやら揉め事が。鷹雪と同い年くらいの、美しい可憐な少女が争いに巻き込まれている。助け逃げたは良いが、鷹雪は倒れてしまって……。
◆完結しました、思いの外BL色が濃くなってしまって、あれれという感じでしたが、ジャンル弾かれてない?ので、見過ごしていただいてるかな。かなり昔に他で書いてた話で手直ししつつ5万文字でした。自分でも何を書いたかすっかり忘れていた話で、読み返すのが楽しかったです。
踊り子と軍人 結託の夜
茶野森かのこ
ファンタジー
「この薬を飲めば、人生をやり直す事が出来ます」踊り子の彼女が自分を生きる決意をする、その場面のお話です。
とある国のとある街。ある夜に、踊り子をしている彼女の元へ、軍人の青年が訪ねてくる。
彼女には、秘密があり、自分を生きる事をやめた過去があった。
そんな彼女に軍人が提案したのは、人生をやり直す薬と、結婚だった。
彼女がもう一度、今の自分のまま生きる決心をする、その場面のお話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる