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しおりを挟む「ここに置いておかなきゃならないとなると、いずれ正体はバレていたよ、いや、そうじゃなきゃ、やってられなかったよ」
春風は少々わざとらしく、閉じた扇子でこめかみを押さえて溜め息を吐いた。そんな春風に、ミオはすっと目を細めた。
「…まさか、わざとやったんですか?それなら話は変わってきますよ。本来、我々の正体は、人の子には伏せなくてはならないんですよ?」
春風の扇子を奪ったミオは、それで春風の胸を小突く。先程までの穏やかな表情を一変させたミオに、春風はまずいと思ったのか笑顔を強ばらせ、なずなも思わず緊張から肩を跳ね上げた。まさか、ミオもマリンと同じで、怒ると怖いタイプなのか。
「こらこら、怖い顔しないで!なずな君と出会ったのは偶然!火の玉男と僕ら鉢合わせになったでしょ?だから、僕らへの当てつけみたいに、もしかしたらなずな君に手を出すかもって、それは困るからアパートに連れて来たんだって、この間話したじゃない!それに、ここに居られなくなったら一番困るのは、僕だよ?わざとやるわけないでしょ!」
詰め寄るミオに、春風は必死に弁明しながら両手を上げた。降参のポーズは、これは嘘ではないという意思表示だ。
春風の真意を見極めようとしてか、じっとりとした視線を向けるミオに、なずなはハラハラと落ち着かなかった。春風が疑われている、もしや春風は罰せられるのか、そうしたら、ここに居られなくなるのかもしれない、それも自分を巡る問題で。
そう思ったら、なずなは気が気ではなかった。自分のせいで、なんて。春風は新しい世界に連れてきてくれた人、神様なのに。それに、春風だけとは限らない、もしここのアパートの皆が連帯責任になったら…。そう考えたら、心臓がぎゅっと苦しくなった。
これで、皆に会えなくなるなんて、嫌だ。
なずなはぎゅっと手を握ると、臆病な心を叱咤して、意を決して身を乗り出した。
「あの、私は無理矢理ここに来た訳ではありません!確かに、ちょっと強引でしたけど…でも、ちゃんと自分でここに居る事を選びました。皆さんの事もばらしたりしません!春風さんは悪くありません!私、火の玉に襲われた所を助けて貰ったんです!」
足が痛いとか、そんな事言ってられない。
切に訴えるなずなに、春風は思わぬ援護にきょとんとして、ミオとナオは目を合わせた。その微妙な間に不安を覚え、なずなは必死な思いで頭を下げた。
「お願いします!春風さん達を連れていかないで下さい!」
すると、ふっと笑い声が聞こえ、なずなが顔を上げると、ミオはいつの間にか穏やかな表情に戻っていた。
「大丈夫、分かってますよ、あなたの気持ちも、彼らの事も。俺達はこのアパートの住人を信じているから、心配をしてるんです」
ミオはなずなの対面にやって来ると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「迷惑を掛けてしまい、申し訳ありません」
「え、そんな、」
「あら、大丈夫よ。私達が、ちゃーんとなずちゃんを守ってあげるから」
「ぼ、僕も…!」
傍らで様子を見守っていたマリンが、なずなの体を支えるように後ろから抱きつけば、ハクも立ち上がって、なずなの傍らへ進み出た。
まだ緊張しているようだったが、それでも声を上げたハクに、ミオは柔らかな表情でハクの頭を撫でた。
「よろしく頼んだよ」
「はい…!」
その一言に、ハクはパッと顔を輝かせた。一際嬉しそうなハクを見て、ミオとは何か繋がりがあるのだろうかと、なずなは首を傾げた。
「なずなも、何かあったら僕らに声を掛けてね!」
明るいナオの言葉に、なずなはほっと表情を緩めて頷いた。春風達が居なくなるかもなんて、ただの取り越し苦労だったと、ようやく安堵した思いだった。
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