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しおりを挟む途端に二人の世界になってしまったフードの中、ルイがこほんと小さく咳払いをすれば、トワがはっとして姿勢を正した。それから、すぐさまルイに向き直ったのを見て、ルイはトワが何かを言う前に、その頭をポンと撫でた。
「僕にとっては、大事な妹と、大事な友人だからね。だから、二人には危険な事をしてほしくないんだよ」
トワの告白を引用する形で言えば、トワは今になって恥ずかしくなったのか、赤くなって俯いてしまった。それでも、兄を一人で行かせられないと前に出たエラに、ルイは軽やかに笑って浮かび上がった。
「大丈夫、もし見つかりそうになっても、和真が何とかしてくれるよ」
そう言って、羽をはためかせてフードの外に飛び出すルイに、エラは唇を尖らせて、和真の襟足を見上げた。外には舞もいる。子供が一番好奇心が仰せいで、何をしてくるか分からないと、長老達に教え込まれてきた。
「…この人間の、どこがそんなに信用出来るのよ」
青い欠片ばかりを纏わせる和真の、一体何を頼りにしているのか。エラは、自分よりも和真の方が兄と対等な立場にいるような気がして、何だか悔しくてたまらなかった。
結晶を手にしたルイは、辺りをキョロキョロと見渡して、フードの中から外へ、ふわりと浮かび上がった。和真と話をしている真由は、和真を見ないようにしているのか、視線を俯けている、今なら、気づかれずに近づける。意を決して飛び出したルイだったが、その直後、大きな視界に捕らわれたような気がして、恐る恐る視線を下に向けると、先程までコロに夢中になっていた舞が、じゃれつくコロには目もくれず、ルイを見つめていた。
「…!」
心臓がぎゅっとして、止まったかと思った。直後、冷や汗がどっと溢れ出し、ルイの顔はみるみる内に青ざめる。しっかりと目が合っているので、身動きがとれない、和真に助けを求めたくても、和真と真由のぎこちないお喋りは続いているし、今、声を出したら、真由にもバレてしまうかもしれない。だが、固まっているだけでは、何も解決しない。すぐに、舞のぽかっと空いていた唇が、声を発しようとして動き出し、下を向いていた腕が空に向けて持ち上がる。
「あ、」と発せられた小さな声に、和真は視線を動かした。フードの中から聞こえたその声は、エラのもので、共にいたトワ以外では、恐らく和真しか聞こえていないだろう。そして、その声に導かれるように視線を巡らせた和真は、すぐにルイが視線の高さにいることも、舞の視界にルイがいる事にも気がついた。舞の口が、ルイを見て声を発しようとしている事も。
まずい。それぞれの胸の内が騒ぎ立てる。
「ごめんね、そろそろ帰るよ、ご飯も作らないといけないし」
「え!?」
一人、何も気づいていない様子の真由が、不意に口を開き、和真は思わず大声を上げてしまった。それに驚いて顔を上げた真由に、和真は咄嗟に真由の両肩を掴み、和真は自分も一緒になって体の向きを変えた。くるりと向きが変わったので、ルイの位置からは真由の背中が見える。
「な、何、どうしたの」
「え!?いや…ご、ご飯なら、たまにはうちで食べたら?母さん達も喜ぶし、」
言いながら、和真はルイに視線を送る。とにかく早く結晶を確かめてしまえ、との合図に、ルイは舞の見つめる瞳はそのままに動き出した。大丈夫、和真が何とかしてくれる、助けてくれる、それを信じて真由の背中に飛びかかれば、ピッとまっすぐにルイを指差した舞が「あ!」と、大きな声を上げた。
時間が確かに止まるような緊迫感、ひやりとした何かが背筋を伝うのを感じたのは、ルイだけではないだろう。
「お姉ちゃんに、む、」
む。
虫だろうか。
そう言った途端、舞のまっすぐに伸びた指先が、コロの口の中に吸い込まれた。
あ。
今度こそ、時の止まる感覚が、全員に行き渡った。何よりも先に動き出したのは、真由だった。
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