東方のレッセイ・ギルド

すけたか

文字の大きさ
上 下
56 / 56
終幕

しおりを挟む


「やだ、なんか泣きそうな顔してどうしたのよ。さっきも泣いてたけど」
「い、いや、何でもない」
そういって青年はペンダントを少女に返した。少女は再び首に下げると、
「そうだ、お兄さん人を探してるんでしょ。探さなくていいの」
「いや、もう見つかった。だからいいんだ」
「え?」
帰る、と青年は言った。少女は、
「帰るって――来たのにもう戻っちゃうの? 用事がすんだから?」
「ああ。元気そうでなによりだった」
「変なの――帰るって、どこの町? ラクダ捕まえないと」
「いいんだ。東に帰るだけだから、ラクダはいらない。世界樹が待ってるから、そこに帰る」
「世界樹?」
「巨木だよ。天を支えるようにそびえている世界樹マグノリア。あれがあるから時間の流れが遅い東でも生きていける。水や果実を恵んでくれるんだ」

少女が怪訝な顔をする。
と、そこで思いついたように、

「ね、お兄さん、無頼だって言ったわよね」
「レッセイ・ギルドだけど」
「ああん、それはもういいわ。それより、今、ヒマ?」
「暇……といえば暇だが」
「じゃあ、お金払うから、私たちのボディガードにならない?」
少女はにんまり笑うと、
「お金は弾むわ。私達が七条や青海を抜け出たことはそのうち各流派に知られてしまう。そうすれば必ず追手が来るはずよ。ギルドがね。私はまだギルドとしては未熟だから正式な免許を持ったギルドには敵わないわ。白夜はギルドなわけじゃないけど……似た感じかな。白夜は「マイスタージンガー」を目指してるの。歌って踊れる結晶世界のアイドルってとこかしら。人々にレッセイ・ギルドの伝説を謳ってきかせるのが仕事。声がとても綺麗なのよ」
えへへ、と白夜が照れた。
「どう? あなたどこのギルドとも知り合いはいなさそうだし――双子がいなくなったってわかったら七条も青海も血眼で追ってくるわ。流派の沽券にかかわることだから。……ホントいうと追手はかなり脅威なの。困ってるのよ」


――困っていたら、俺を呼んでよ。


青年が断る理由はなかった。その言葉を――待っていたのだから。

「受けよう。でも金は要らない」
「やった! 交渉成立ね。金は要らないなんて、どうせど田舎で育ったから使い方を知らないんでしょ。どっちにしろお金はかかるんだから貰っときなさいよ。ああそうだ、まだ名乗ってなかったわね。私は維新いしん。お兄さんは?」
「……九十九」
「九十九? ふーん、何だがゲジゲジみたいな名前ね。じゃあ早速出発よ。追手はいつやってくるかわからないからね。どこ行こうか? 白夜、行きたいとこある?」
「僕は姉様の行くところならどこでも」
「九十九は?」
「……腹が減っている」
「そこのお店で食事でもしてくる? パイを売ってるわ」
結晶植物パイは受け付けない……結晶植物プランツではないなにか別のものがあればいいんだが」
「アレルギー? 仕方ないわね……じゃあ古代植物とかなら平気なの?」
「古代植物?」
「千年以上前から存在してる植物よ。「土の王」ってところで栽培されてるの。結晶世界の観光スポットでもあるんだけど。噂じゃレッセイ・ギルドも食したとか」
「それがいいな」
「じゃあ決まり! 「土の王」に行きましょ! 言っとくけど古代植物は高いですからね。払ってあげるけど、チャラにはしないわよ。その分働いてもらうから」
「僕、ラクダ一匹買ってくるよ!」

そういって白夜はラクダ売りの元へ駆けて行った。問答の末、一匹の頑丈そうなラクダを連れてくる。

「三人乗れるって」
「九十九、ラクダ乗れる?」
「もちろん。俺が手綱を引こう」
「あ、その前に食料買いましょ。水は回路で生成するからいいけどこればっかりはね」
維新は布を広げて雑貨を売っている露天商から九十九の分のコップやら敷布やらを買って、更に食料も荷造りすると、手際よくラクダに載せて括り付けた。
「じゃあ私が前ね、後ろに白夜乗って! 九十九、ちゃんとラクダ操って、落とさないでよ。それじゃあ、行きましょ!」
しゅっぱぁつ! と維新が笑顔で拳をあげるとラクダがその一歩を踏み出した。

空は青く、澄みわたって雲一つない。風がバタバタと九十九の灰と藍の鉢巻きをはためかせて砂が舞った。
ラクダはどこへともなく停留所から離れ、去っていく。


――こうして最期のレッセイ・ギルドと、かつての人類の末裔は元気よく共に彼方へと旅立っていったのだった。








しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...