東方のレッセイ・ギルド

すけたか

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第四幕

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「皆気をつけろ! 他にまだいる! 攻撃を受けているぞ!」

これは幻。幻影、いや幻覚だ。新たなクリスタリスの特殊行動。視覚を奪われるのはまずい。
「吹き飛ばしてやる!」
砂に囲まれた九十九は装天して風信子石ジルコンで突風を作り出す。
が、砂は消えない。
「なに……」
「これは幻覚だ。風では消せない。幻覚を生み出しているクリスタリスを探さないと……!」

そういって六十八は装天する。立体樹枝付角板結晶。冠のような形で、六十八は頭にかぶるともう一度装天した。
それぞれに鷹目石ホークアイを嵌め、手にしていた回路を幻影の中に放り込む。
鷹目石ホークアイは視覚を司る。これはもう一方の回路と繋がっていて鷹目石ホークアイの見る景色を私の目に伝えてくれる。鉱石に幻覚は効かないからな」
六十八が放り込んだのは六花霰りっかあられという特殊な形態の回路だ。雲粒付結晶群うんりゅうつきけっしょうぐんに属する、扱いが難しい回路である。六花霰は空中を一定の時間浮遊することができる。
昔の文明でいう、無人探査機ドローンのようなものだ。

「本体がこの砂煙の中のどこかに隠れていやがるはずだな」
しかし本体を見つけるまで相手がこのままでいるわけはない。七十七が疲れた顔で六十九の傍による。
装天には血と、強い意思の力がいる。続ければこっちが消耗して不利だ。
砂金水晶アベンチュリン!」
六十九が癒しの鉱石いしを使う。たちまち七十七の身体がキラキラと光に包まれた。
「ありがと師匠! 少し回復したわ」
「治癒系じゃ下位で悪いが……これから何が出てくるかわからねえからな」
上位の鉱石は取っておかなければならない。その時サッと六十九の視界を何かが横切った。
「む!」
砂の幻覚の中、注意して地面に目を凝らす。何かの影――蠢いている。
「下だ! 大地を移動している! 幻覚は空間にしか現れていない。六十八、地面を見ろ!」
六十九の声に六十八の六花霰が地上を探索する。石と土と緑の大地――そこを泳ぐのは。
「!」
僅かだがその姿を鷹目石ホークアイが捕らえた。同時に回路が昇華蒸発アセントして消える。
ほんの数ミリ、それでも一二三の目からは逃れられない、逃さない。
星葉石アストロフィライトだ! しかし一部しか見えなかったから本体かはまだわからん!」
星葉石アストロフィライトは幻覚を生み出す部類ではない……ただの視線誘導か? こいつを使役しているクリスタリスが他にいるはず……)

何にしてもすぐ壊すに限る。
――装天。
九十九が目を見張った。

「! 師匠それは……」
「皆、衝撃に備えろ!」
六十八が装天したのは多重六花結晶。鉱石の力を桁違いに増幅する雪の花。
その中でも特に暴力的ともいえる力を発揮する――二十四花だった。
「大地に隠れているというなら、大地そのものを割るまで……!」
碧玉ジャスパー橄欖石ペリドット緑泥石セラフィナイト高陵土カオリナイト火蛋白石ファイアーオパール雷水晶ライトニング。そしてそれを補うおびただしいほどの水晶クォーツ
土・火炎・電撃系上位の鉱石を一気に使う。
(使えるのか――)
九十九はたじろぐ。どれも暴発の危険がある鉱石。それを同時に大量に使うなんて。だが――一二三は使ってみせるつもりだ。九十九の身体が武者震いした。
「――吹き飛び、四散しろ!」
六十八の一声で辺りに閃光が走った。
轟音を立てて地面が崩れ、沸騰する。爆破の影響でレッセイたちは飛んでくる岩の破片を避けようと身をかがめた。
「相変わらず無茶苦茶しやがる!」
六十九は赤毛と白い鉢巻きを抑えた。辺りはグラグラと揺れてまるで――古代の不発弾が着火し、爆発したかのようだった。
爆風が巻き起こり、くっ、と九十九は飛ばされないよう地面に這う。
何事もなかったかのように立ち尽くす六十八の前から幻影がサーッと消え、爆心地には巨大な穴が深くあいていた。

「――そういうわけか」

六十八は再装天する。
穴に密かに隠れているクリスタリスの姿があった――まるで愛らしい、場違いなハートの形。
こちらの様子をうかがっている。

「双晶……」

双晶は宝石群パキラにしか見られない形態である。
クリスタリスが成長する過程で、二つ以上の結晶が結合した形だ。多種多様なクリスタリスがあわさった、非常に厄介な相手である。

(正体は二種類……輝く青に黒の鉱石が半々……菫青石アイオライト黒金剛石カーボナートだな)

「どちらも幻覚は撒かない。てことは中の核が幻覚を生み出していたってことか」
六十九がやっとこさといった感じで鉢巻きを締めなおすと六十八に近づいた。
「さっきの一撃で一時的にショックを受けて幻覚攻撃をやめたようだが、やっこさんまだぴんぴんしてるぜ。だから宝石群パキラは嫌なんだ」
軽口をたたいているが六十九の額にはじわりと汗がにじんでいる。
核とクリスタリス自体の特殊行動両方を相手にしなくてはならない。そして核はまだ未知だ。
「やるしかねえ」
六十九は装天すると、五メートルはあるかと思われる双晶にゆっくり近づく。
(双晶である以上片方づつ叩くしかない。黒金剛石カーボナートは硬度も靭性も十。故に力任せは無意味)
曹灰硼石ウレキサイト
手にした鉱石の欠片を砲弾状結晶に入れて放り投げる。途端、空間がぼやけた。
曹灰硼石ウレキサイトは幻覚系の鉱石で視覚を二重に濁らせる。本来ならクリスタリスが使う効果なのだが……、
(クリスタリス自身の目を誤魔化すことができたならこちらに有利だ)
回路の効果があったのかわからないが、凶暴なハートは黙している。が、ヒュッとその身を浮かせると穴から出てハートの先端を岩の上にのせた。図体に似合わない軽やかな動きに六十九は僅かに動揺した。
途端。

「……!」

双晶の片側、菫青石アイオライトの中からボコボコッと複数の灰色の触手が飛び出してきた。ずるずるとのびて蔓のようにうねっている。見たところ柔らかい土瀝青アスファルトの手といったところか。
触手の先端にはウニのようなするどい針状の結晶がついている。ヒュッと六十九の後ろにいた九十九に触手がのびた。
速い。
くっ、とすれすれでかわす。九十九の頬に赤い筋が走った。
(! この感触……水晶クォーツじゃない、硝子ガラスだ!)
「――えい!」
再び襲ってきた触手の先端をハンマーでたたき割る。簡単に粉々になった。
「なんだよ非結晶質アモルファスか!?」
「そうみたいだ。でも」
土瀝青アスファルトの触手は動きをやめない。次第に硬化し強化していく。長期戦は厄介だ。
(あいつをどうにかしないと)
装天。
九十九が使うのは白金プラチナ白金プラチナは柔らかな性質でよくのび、からめとって離さない。だがクリスタリスの触手は意に介さない。七十七が菫青石アイオライトを壊すべく装天する。石は色とりどりの黄玉トパーズ。色によってもたらす性質が異なる。六十八と同じく、混合した力で破壊するつもりだ。しかし、
「なんだ!?」

菫青石アイオライトの身から突然大量の水が噴き出た。
洪水のようにレッセイたちを飲み込み、さらに水量は上がる。七十七が水を飲んでしまい、せき込んだ。片足をつく。
それを守るように六十九が七十七の前に回った。
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