東方のレッセイ・ギルド

すけたか

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第四幕

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エズはロサのテントから離れるとロサの人々が暮らす「区域」へと向かった。
喧嘩はないか、諍いはないか、常にロサが穏やかであるよう、夜の見まわりをするのも騎士の役目だ。
みんなもう寝入っている。テントの中で寝る者、そこら辺に雑魚寝をするもの、様々だ。全員がテントで寝られるほど資材は足りていない。だが緑の恩恵を受けてからは調度よい気候で、集落の掘っ立て小屋や路端で寝てもどうという事はなかった。
エズは寝っ転がっている子どもたちの上に薄い敷布をかけてやった。広い集落を警邏して廻り、そろそろ自分のテントに戻るかというところで老人の姿が目に入った。テントの前に座ってしきりに肩をまわしている。

「御老体、もう夜だ。体に障るから中でお休みになられるとよい」
「あらまあエズ様、いえね、ちょっと身体がだるくて熱くて……もう歳だから身体の調節が効かなくなることがあるんですよ。外の空気に当たれば少しはよくなるかと思いましてねえ」
「それはよくないな。御老人は結晶世界を生き抜いてきた強い命の証明。お体労ってくださるよう、やはり中で寝たほうがよかろうと思います」
「そうねえ。そうしますわ、ではエズ様お休みなさいませ」
「ええ、良い夢を」

そういってエズは老人と別れるとジオス家のテントに向かった。中に入ると、ヴァルルが布団の用意をして待っていた。
「おかえりなさいませエズ様。寝所の準備は整っております! 今日の見張りはジオス家の従者がしますから寝ましょう。僕も夜番はせずに寝ますよ」
「そうか。では言葉に甘えるとしよう」
「あ、エズ様」
ん? と騎士服を脱ぎかけたエズに向かって、
「「ヴァルル」ってどういう意味ですか? 昼間名乗った時レッセイ・ギルドから「水」かって言われたんですよ」
「なんだ、自分の名前の意味も知らんのか。ヴァルルというのは水の流れとか、源といった意味だ。結晶世界では水が貴重だから、恵みあれと名付けられたのだろうな。羨ましいものだ」
「エズ様は……どういう意味なんです?」
「私か? つまらん理由だ……私は七番目の子だった。兄弟の末っ子で、だからエズ。「エズ」というのは七を意味するんだ。それにしてもレッセイ・ギルドは我々の言葉を知っているのか……興味深いな。さ、蝋がもったいないからもう消すぞ。寝よう」
ヴァルルが布団に入ったのを確認して、エズは蝋燭の灯を消した。


五日後、人々はまたしてもクリスタリスの襲来を告げる鐘を聞くことになった。太陽は南中し、昼を過ぎようとしていた。
レッセイたちは既に敵に向かっている。
エズは、
「守りを固めろ、鳥籠の用意も」
そういいながらアルタの姿が見当たらないことに気付いた。こういう時真っ先に現れるはずなのだが……まさか一人で外に出たのだろうか。ざわめく人々の流れを泳ぐようにすりぬけ、エズはアルタを探した。
「エズ様!」
ヴァルルが走ってやってくる。
「ヴァルル、アルタ様を知らないか」
「アルタ様なら、今ご自身で手当てを」
「なんだと?」
「足をひねったと。包帯で固定したらすぐ来るそうです。布を渡してきました」
「わかった」
エズは門から飛び出し、剣を腰に携えて鳥籠を一つ持ち、クリスタリスの方へと走った。

「……! な」

――なんだあれは。エズは言葉を失う。

レッセイたちが相手をしているクリスタリスはきらきらと太陽の光を反射して赤く輝く、あまりにも美しい真紅の姿だった。
炭が緋色に燃え盛るように内部は朱色の光が揺らめいている。まるで真っ赤なランタンのようだ。だが塊状のそれは苦しみに身を捻るかのように「く」の字にひしゃげ、生理的嫌悪を催す。おそらく二十メートル以上はあるだろう、その身に炎を纏ってこちらに進んできていた。

(あんなものが攻めてきたらロサは壊滅だ。ひとたまりもない)
エズはごくりと唾を飲み、
(レッセイ・ギルドよ……どうか、どうか……!)
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