東方のレッセイ・ギルド

すけたか

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第三幕

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「……っ!」

九十九は体を這いまわる悪寒に飛び起きた。遠く、ロサからカンカンカンカンと金属を叩く音が響いている。
「九十九起きたか。すぐに用意しろ」
六十八が、六十九が……皆がすでに臨戦態勢に入っている。
「見ろ。おでましだ」
六十八の視線の先、九十九たちが昨日やってきた方角から巨体の岩がこちらに向かっていた。
獣形のクリスタリス。
すでに日は昇っている。朝日の後に出現したと思われた。

「出る。行くぞ。ここまでたどり着かれる前に殺る」
レッセイ達は支度を整えるとその場から急ぎ走り出す。彼らの足は早い。クリスタリスへ一直線、迷いもなく駆ける。
遠く、ロサ・エスファナからも人が出てくる気配がした。


「大変です、見張りの者がクリスタリスを発見しました!」
従者の慌てた声にアルタは布団から飛び出す。急ぎ着替えるとすぐに見張り台にしている集落内の巨岩の元へと走った。登ると既にエズがいて、遠眼鏡で太陽の方角を見ている。
「エズ! 様子は!」
「獣のクリスタリスが二体! 大きさは大獅子ほど。三百メートルは先ですが近づいてきています。集落には武器を持たせた男たちで固めさせていますが……ヴァルル!」
「鳥籠を配置しました!」
見張り台の下でヴァルルが白い鳩の入った鳥籠を掲げて叫んだ。
「もう飛ばしましょうか!?」
「もう少し近寄ってきてから――いや、待て!」
エズが興奮気味に叫んだ。
「彼らがクリスタリスに向かっています!」
「彼ら――九十九たちのこと!?」
「そうです。レッセイ・ギルドです! 戦う気だ」
「無茶な」
ヴァルルが顔色を変えた。
「どうやって戦うって言うんです。昨日見た彼らは特別な武器も鳥も持っていなかった!」
エズは急いで見張り台の梯子を降りた。ヴァルルから鳥籠を受け取ると丸い集落の一番端——―すなわちクリスタリスに一番近い場所に駆けつけた。黒曜石オブシディアンを尖らせた槍や、古い鉄の棒を携えたロサの男たちが集まっている。
「エズ様!」
「役目ご苦労! 鳥の用意があるが気を引き締めろ。それに……もっと頼もしい味方がいる」
「味方?」
「レッセイ・ギルドだ!」
どよめきがおこった。男たちだけではない、集落は水晶の先端ポイントで丸く囲まれているが、クリスタリスが現れたと聞きつけ、やってきた人々が内側でうねっていた。
エズは遠眼鏡で様子をうかがう。レッセイ達がクリスタリスとぶつかり合うまであと二百メートル。
「エズ!」
アルタが息を切らして走ってきた。その後ろを慌ててヴァルルが追ってくる。
エズはバッと手を広げ、群集に向かって叫んだ。

「皆よ見るがいい! これから我々は結晶世界の神の力をその目に焼き付けることになる!」

そして再びクリスタリスの方へ振り向くと高鳴る鼓動を抑えた。




装天。

五人は一斉に回路を開きクリスタリスへと迫った。
「二体のクリスタリス、「結晶群クラスター」と「岩石群ゼーベ」。二手に分かれろ」

六十八の指示に従って六十九と七十七、九十九と六十八・九十五それぞれが各クリスタリスに攻撃態勢をとった。「結晶群クラスター」を追っていた六十九が鼻をスン、とすする。
「くせえな。硫黄の匂いがする。爆裂したら厄介だ。火炎系や電撃系は使えねえ」
六十九は即座にクリスタリスの性質を理解し回路にいくつかの鉱石を嵌め込む。
「七十七、援護しろ」
「了解」
六十九の言う通り、硫黄を含んだ岩石のクリスタリスが彼らを認め、襲ってくる。噛みつこうとして避けられると身体を震わせ、背中の水晶をいくつも二人に向かって飛ばしてきた。七十七は回路に貝殻シェルを仕込む。鉱石ではないが、防御壁を形成することができる青海の恵みであり、素材の一つだ。六十九と七十七を丸く囲むように虹色の壁が鋭い切っ先の水晶を跳ね返す。
「おらよっ!」
六十九の回路は扇状結晶、広幅六花。雪の花から灰色の光がクリスタリスへ向かって走る。力の源は葡萄石プレナイト。そして黒縞瑪瑙オニキス
「砕けろ!」
葡萄石プレナイトには「硬化」の力がある。たちまちクリスタリスを硬直させ、その場に足止めすると黒縞瑪瑙オニキスの重力がその身にかかり、クリスタリスは握りつぶされるように弾けて砕けた。転がり出た心臓の核を六十九は足で潰す。硫黄のクリスタリスは砂と化し、風に吹かれて消えた。
「たわいねえ。六十八たちは?」
視線を向けると、ちょうど九十九が針入り水晶ルチレイテッド・クォーツでとどめを刺していたところだった。
「ふう」
九十九が額を拭う。
「滑石のクリスタリスなんてちょろいちょろい。硬度一だもんな」
「九十九、鮮やかでしたよ」
「へへっ、師兄にいさまの後援ありがとうな」

「……」
二人が互いの功績を称える中、六十八は無言で手元の回路を昇華蒸発アセントさせる。

(妙だ)

六十八は気を緩めることなく辺りをじっとうかがう。
(手応えがなさ過ぎる。肉を食らいに来たわりに脆い)
六十八の経験と勘が告げる。これは――前触れだ。

来る。
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