東方のレッセイ・ギルド

すけたか

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第一幕

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「おーい」

獣を狩っていた五十五たちの呼ぶ声がする。
「仕留めた! 結晶化はしてない。早速焼いて食うからこいよ」
「はーい。行きましょう一二三」
うむ、と答えながら六十八は半分寝ている九十九を抱きかかえてなお、まだ回路の型の種類を柔らかな小耳に呪文の如く吹き込んでいる。
「なんだありゃ」
六十九が怪訝な顔で回路で火を起こしながら六十八を見、七十七の方を向いた。
「回路の型を教えてるのよ。教えてるというより洗脳かもね。それとも暗示?」
「うげー。そういえば四十の親爺もスパルタだったな。あそこの系統はサドだ」
長い長い年月にわたって技の継承を続けた結果、彼らにはいくつかの流派というか、系統が存在する。
例えば六十九の師は五十六いそろくで、弟子は七十七、その七十七の弟子が九十だ。
六十八は師が四十、弟子が九十九。
レッセイは基本、弟子を一人しか持たない。弟子はいつか師となり、また弟子を取る……連綿と続くこの流れが一種のクセを生む。厳しい師を持つと弟子もいつか厳しい師となるような。回路技術もそれと同じだ。
同期である六十九と六十八でも得意とするものが違うし、技術も微妙に異なる。そういう流れがある。
「ほらな、やっぱり俺はやさしい師匠だったろう、七十七」
「どうでしょう?」
七十七は笑う。六十九は鉱石の精査にうるさかった。
回路を暴発させる可能性のある石は徹底的にはぶくのは勿論、回路の能力を最大限に引き出すための鉱石の研磨にも厳しい。納得しなければ何十回でも何百回でもやり直させた。
七十七は泣きながら小さな手で鉱石を磨いたものである。
「さ、久々のまともな食事だ」
「近くに地下水が湧いたところがありました、水を溜められますよ」
「化石水じゃないだろうな」
味見しましたから大丈夫ですよ、と九十五は六十九に自信ありげに言った。砂漠の地下には水が貯められている。これが地上に現れるのがオアシスだが、オアシス以外にも湧き出す場所はある。だが大抵、古代の海水の混じった塩気の強い化石水だったりする。これは飲めない。
「あとで汲みに行きましょう」
そう言いながら九十五は小分けにされた肉に岩塩ハライトをまぶしながら一つ一つ袋に入れた。しばらくの保存食になる。今回は乳も肉もとれ、水も発見できて上々だ。こういう幸運はなかなかない。食事を終えて、レッセイ・ギルドたちはわずかに茂った木々の木陰に寄り添って寝た。白昼の、一時の安らぎ。クリスタリスの襲撃のない時はとにかく寝るに限る。奴らは昼も夜も関係なく襲ってくるからだ。横になりながら六十九は半分夢心地のまま一二三に問うた。
「見込みはありそうか? 九十九は」
「まだこれからだが、才がなければ捨てるだけだ。七歳までに基本技術が覚えられなければ砂漠に置き去り、それが掟」
「そーね。そんでだれも漏れはなかった。まあ……弟子を取ると変わるからなあ」
「何が言いたい」
「俺はお前が師になるのをみてみたいのさ」
「?」
ま、いつかわかるよ。
そういって六十九はそのまま寝入った。六十八は何やら納得がいかなかったが、つかの間の休息を無駄にしないために九十九を抱えて目を閉じた。
現在生存しているレッセイ・ギルドは一二三である六十八りくはを筆頭に五十五ごご六十九ろく七十四しし七十七なな八十八はっぱ八十九はっく九十ここのと九十五ここのえ九十九つくもの十名。
随分数は減った。
最盛期はもっといたと聞くが、有機生物が限りなく少なくなり、クリスタリスが絶えず跋扈するこの結晶世界で技を継承し生き残り続ける――それだけで十分、奇跡なのだ。
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