上 下
129 / 150

129 アデライン視点⑰

しおりを挟む

 元々ステファンは女性にいい顔をする人だという事は知っていたし、学生時代も周りに沢山女性を侍らしていたのだから浮気をするかもしれない事は分かり切っていたはずだったのに、結婚すれば彼は変わるかもしれないと何処かで安易に考えていた自分を呪って正直夜通し泣いた事もあった。



 帰ってからステファンからの閨の誘いは無かった。

 複雑な思いもあったが正直どんな顔をしてそれを受ければいいのかも分からなかったので誘いが無い事に胸を撫で下ろし、夫婦別々の部屋で夜は眠る日がずっと続いていた。



 だけどある日――


 『子供ができたかもしれない』


 という彼の告白に打ちのめされた時に、結局私は耐えきれずにエイダンに電話をしたのだ。


 『助けて欲しい』


 と。





 思えば私自身、母が死んでから父や弟に頼ったことが無かった。


 ――継母の事があったからだろうと今なら分かるけれど・・・――


 気が付けば信頼を寄せていたのはオルコットの義理の家族とエイダンだったように思う。


 でも、鼻を啜りながら涙を浮かべるステファンの告白を聞いて、頭に浮かんだ疑問は私は本当にステファン自身の事を見ていたのだろうか? という事だった。

 確かに学生の頃は信頼するに値しない放蕩っぷりだったと思う。

 だけど留年確定と囁かれていた彼が、突然真面目に勉強に取り組み始め、無事卒業に漕ぎ着けてからは寝る間も惜しんで領地改革をし、その甲斐あって陞爵したのだ。

 その努力と周りからの評価は並大抵では得られなかったはず。

 其れはオルコット家が陞爵した時に実感した事だ。

 領民の生き方そのものが変わるくらいの経済効果を生み出さなければ陞爵などあり得ない。


 其れを私がいたからこそやり遂げたのだと言った彼と私はちゃんと正面から向き合っていたのだろうか?

 散々傷つけられてきたからこれ以上は傷つきたくないと、殻にこもって逃げていたのは私の方だったのでは無いだろうか・・・。


 ――幼い頃から私の側で、私だけだと愛を囁き続けて来た彼を見ていなかったのは、本当は私の方だったのかもしれない。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...