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135 ファーストダンス

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 サーシャ嬢とファーストダンスを踊りながら、未だにクツクツ笑う隣のカップルの親友に目をやると、何やらアデラインに頭をはたかれている・・・

 そのやり取りの間もお互いに目を合わせては微笑み合ってはステファンの笑いが更に加速するのだから始末が悪そうだ。

 眉を下げながらも幸せそうに輝いて見えるアデラインを見て何だか娘を手放した父親のような気分だな、と思った。


 ・・・おかしい。

 父親になった事は無いはずだぞ?


 「泣き虫ってだけじゃないなありゃあ」


 首をひねった後で思わず口にすると、


 「元々喜怒哀楽きどあいらくが激しくて貴族らしくないってご両親にいとわれてたんじゃないでしょうか? 決して人として悪いことじゃ無いと私は思うのですが。貴族としては眉を顰める方も未だに多いでしょう」


 サーシャ嬢は複雑そうな顔をした。


 「ああ、多分な」


 俺は元が無愛想なだけで、侮られないと言うだけに過ぎない。
 ステファンのように感情をきちんと表現できる方が人として好ましいと思う。


 「貴族社会の歪みだな・・・」


 俺がボソリと呟くと彼女は黙ったまま頷いた。


 「元が爵位の低い貴族出身の俺が言える様なものじゃないがな」

 「私も似たようなモノです。でもコレはおかしいって思ってる人が多いから本の世界では自由に主人公達が感情に物を言わせて動いているのでは無いでしょうか? 冒険小説や恋愛小説等の中の登場人物たちは自由気ままですよね」

 「確かにな」

 「大衆小説の作者は殆どが貴族ですよ。隠してますけどね」


 彼女の言葉に驚いた。


 「考えたことがなかったな」

 「文字を書けるのはいつの世でも貴族か商人ですよ。そう考えるとおかしいでしょう? 読むことのできる人だって貴族や商人です。他は牧師さん? ですかね」

 「確かにそうだな・・・」


 文字の普及率は未だに高くなったとは言い難い――

 そう考えれば物語の作者は貴族階級だ。


 「いつか変わるのかもしれないな」

 「何がですか?」


 俺はそれには答えずに、ただ微笑んでステップを踏んだ。

 
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