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105 鈴蘭
しおりを挟む彼女は俺の言葉を聞くと、片方の眉をピクリと動かして面白がるような顔をした。
「そうだと良いですわね」
新聞の記事だってそうだ。
よせばいいのに2人の間に俺がしゃしゃり出て、事を大きくしてしまい慌てたクリスが情報を流して新聞沙汰になってしまった。
それを全てが誤報だったと各社に謝罪文を書かせるように手を回したのも十中八九彼女だろう。
「ありがとう。俺は君に礼をまだ言ってなかった」
それには答えず、見るからに高価そうな扇子を顔の前に広げてクスリと彼女は小さく笑う。
「君は一体何がしたかったんだ?」
『パチン』と音をさせて扇子を畳むと首をゆったりした動きで傾げる。
「ただの気紛れですわ。それと彼には学生の頃の借りがありましたから其れを返しただけですわ。でも彼女には意地悪ですわよ?」
うふふと忍び笑いが聞こえ、突然彼女が近付いて来て俺の耳元で囁いた。
「それともう1度だけ、学生の頃のように純粋な気持ちで恋した貴方様を間近で見ておきたかったのかもしれませんわね」
そう言いながら再度首を傾げると耳元のアクセサリーがシャラリと金属音を立て彼女は俺から離れて行った。
フワリと鼻をくすぐる鈴蘭の香水の香り。
「お2人共、とてもお似合いですわよ」
そう言って彼女は俺とサーシャ嬢を見比べて、優雅に微笑んだ。
×××
「あの女性は、軍関係の方ですか?」
「え?」
先刻の男性にエスコートされて軽やかに去っていく彼女を見送っていると、突然サーシャ嬢が質問して来た。
どういう事だ?
「私の父は王国軍の武官ですが滅多に他の部署の方に会わない役職なんです。その父を知っているということは上級武官か将軍かそんな所でしょうか。でも女性の上級武官は居ないはずです」
「・・・成る程」
じゃあ、彼女は軍関係の諜報員とか・・・ まさかな。
窓から見えた星空が美しかった。
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