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106 中庭

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 夜会の喧騒から少し離れて休むために、パートナーのサーシャ嬢を中庭に誘った。

 マリア嬢が自分達の前から去った途端まるでせきを切ったようにその辺りにいた招待客が引っ切り無しに声を掛けてきた為その対応に追われたからだ。

 サーシャ嬢も頑張って奮闘していた。


 『優秀な秘書として、接触してくる招待客を全てビジネスに繋げて当然です』


 と、事前にチャーリーに言い含められていたらしい。

 本人はとっとと自分の婚約者と連れ添ってダンスを踊っているのにな、と思わず彼女の真面目さについ笑いそうになって堪えるこらえるのが大変だった。



×××



 「うわぁ、綺麗ですね!」


 彼女は庭を見回して感嘆の声を上げた。

 中庭には美しくオブジェになった照明があちこちに置かれており、花や背の高い木々を夜の暗さの中でボンヤリ浮き上がらせて、まるでいつもの夢を見ているように錯覚しそうだった。


 俺は先刻のマリア嬢のことを少しだけ思い出す。

 本心からの言葉なのかは分からないが学生時代に俺のことを恋い焦がれた相手と彼女は言った。


 卒業して6年。

 薄情な事に彼女の顔すらまともに覚えていない俺。

 そんな俺や借りがあったと言うステファンを多分助けてくれた彼女。

 確かにアデラインには酷いことをしたかも知れないが、それは彼女が直接アディに何かしたのかと問われるとそうじゃない。

 むしろステファンや俺の方がアディに対してもっと酷いことをしてる。

  彼女の人生を勝手に俺達が決めてしまったから――


 俺はアデラインと初めて会った時に彼女はステファンを好きなんだと思ったんだ。

 アイツの言い分だけを先に聞いて信じ込んでいたとはいえ、彼女に確かめる事をしなかった。

 それが間違いだった。


 今更だけど――


 昔と違って身分制度も随分ゆるくなったが今もまだ貴族の婚姻には自由は殆ど無くて、女性は家長の持ってくる縁談は断ることはできない。

 同じ様に男も同じだが国に対して目に見える形で――報奨を貰えるくらいには――貢献すれば、家長じゃなくても身の振り方を決められる。


 俺は目の前にいる好きでもない男の婚約者にされてしまった女性を貴族の柵に囚われたままにしたくはなかったんだ。






 産みの母のように――


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