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94 サーシャ視点⑥
しおりを挟む「おい、サーシャ」
ある朝、下の兄が朝食の席で新聞を手に持ったまま私に声を掛けてきた。
「にゃに~~?」
「飯を食ってから返事をしろよ」
呆れた顔をされたけど、私がパンを口に入れた途端に声を掛けてきたのはそっちでしょッ!?――
と言ってやりたいが、あまり時間もないのでそのまま口をモゴモゴ動かす。
「お前の勤め先大丈夫なのか?」
兄の手には、例のゴシップ新聞――会長が秘書のチャーリーさんと恋人関係にあるという記事を載せていた失礼なヤツだ―― が握られていた。
「大丈夫って、何が?」
「お前の憧れのエイダン・オルコットが男色だってこの新聞に載ってるじゃないか? そんな所で働いてて大丈夫なのか?」
「あらあら、そんな楽しそうな職場なの?」
何故か母が頬を染めて兄の持っている新聞を覗き込む。
母よ・・・ 隣の席の腐女子と同じだよソレじゃ・・・
「チャーリーさんは秘書だけど、れっきとした公爵家の嫡男で婚約者もいるよ? 会長は忙しすぎて恋人は作る暇はなさそうに見えるけど」
「あら、じゃあこの新聞社が嘘を書いてるってことかしら?」
と、母が若干残念そうに眉を下げる・・・
「そりゃゴシップばっかり書いては散々訴えられては問題になってる新聞社じゃないか?」
上の兄が母と一緒になって新聞を覗き込む。
「そうだな」
父が珈琲を飲みながら兄の言葉を肯定するように頷いた。
「例え、会長が男色家だったとしても私の業務には支障はありませんから悪しからずッ!」
食事を終えると側に置いてあった鞄を手に椅子から立ち上がった。
「私が会長を尊敬し過ぎて、オルコット商会に入社したって勝手に誤解して変な言い掛かりつけるのやめてよね」
イイィ―っと兄に向かって舌を出してからダイニングを後にした。
ドアの向こうで母の笑い声が聞こえ、アレン兄さんがカイン兄さんをたしなめる声がした――
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