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56 後悔

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 「アディは、ブルーム侯爵家に俺が連れてく。お前は少し頭を冷やせ」


 俺はそう言いながらこれ以上自分自身の頭に血が登らないように、深呼吸をした。


 お前はもう侯爵家の当主だぞ? 

 八方美人で女性に甘い上に自分の欲に正直だろ? 狙われるに決まってる。

 何だって不用意に、妻以外の女と2人きりで会ったりするんだよ・・・


 「行こうアディ。馬だけど。君は平気だろうから」


 振り返ったら、元妻が驚いた顔で俺を見てた。


 「覚えてたの?」

 「は? 馬のことか? 当たり前だ」


 コクコクと頷く彼女。


 「俺が君の緊急事態だと判断して、駆けつけてくれるのなら女扱いはしなくていいから馬で早く来て欲しい、だっけ? そう君が俺に言ったのは4年前だったけど」


 そう言って左手を差し出したら、彼女はやっぱり右手を載せた。


 「ありがとう。緊急事態だと思ってくれて」

 「ああ」


 彼女の弟の所なら、安心だろう。


 「一旦王都に行くわ。明後日仕事なの」

 「いや、もう時間も遅い。一旦君の実家へ行ったほうがいいだろう」


 2人で話していたら、


 「待ってくれ、アディ。出て行かないでくれッ!」


 アイツの叫び声が聞こえた。


 「なあ、ステファン。この国は一夫一妻制になったんだ。国王陛下だって妃殿下しか娶っていないんだぞ? 側室も愛妾も国が認めていない。もう時代が変わったんだ」

 「?」


 溜息しか出ない。

 何故分からない?


 「その女の腹の中の子供の親はお前なんだろう?」

 「だから・・・」

 「だから? お前とあの女がその赤ん坊の親だ。アデラインに産まれた子供を押し付けるのか? 養子にでもして? それで相手は納得するのか?」

 「・・・」

 「それとアディの気持ちは?」

 「・・・」

 「じゃあ、行くぞ。頭を冷やして自分のやったことをよく考えろ」


 俯き、涙目で押し黙るアイツ。

 目を閉じてる元嫁。

 困り果てて沈痛な顔になっている使用人達。





 俺は元妻の手を引いてそのまま歩き出した。

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