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 彼女の相談は思った通り弟の言ってた、モデル事務所の立ち上げの事だった。


 「これからの時代の仕事だと思うわ。真っ先に始めるのは良いけれど、長期勝負になるわよね」

 「ああ」


 2人で顰めっ面になっていたかも知れない。

 お茶を運んできたサーシャ嬢が微妙な顔をしていたからだ。


 「また変な顔してるぞ」

 「うえッ?! 本当ですか」


 お茶を置き終わったその手で両頬を挟む。


 「すみません、お2人共すごく真剣なのは分かるんですが鬼気迫る感じで・・・ つい、顔に出ちゃったんでしょうか」


 しょぼ~ん、と垂れた犬の耳の幻覚が見えた。


 「あら、そんなにすごい顔だったのかしら?」


 アデラインが、思わず自分の頬を抑える。


 「えと、お2人共美男美女なので正直ちょっと迫力あり過ぎで怖く見えました」


 元妻と思わず顔を見合って


 「「気をつけないと・・・」」


 と、お互いに同じ事を呟いた。




 サーシャ嬢が一礼して退室していった後で弟の言う『モデル事務所』の構想を話し合った後、ふと彼女の指に結婚指輪が見当たらないのに気がついた。


 「アディ、指輪がないぞ?」


 彼女は優雅に微笑み、首元からネックレスチェーンを引っ張り出すとその先にぶら下がった指輪を見せる。


 「ちゃんとあるわよ。今は着けるのが癪に障るのよ。わかるでしょう?」


 金属か触れ合って『チリン』という小さな音がした。


 「・・・ なぁ、それ」

 「? 何?」

 「捨ててなかったのか?」


 彼女は見惚れる程艶やかな笑顔を見せて。


 「内緒よ」


 そう言って、悪戯が見つかった子供のように口元に人差し指を当てる。

 今度は確実に心臓が跳ねた。 






 ある指輪のうち、片方は俺が彼女に贈った結婚指輪だったから――





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