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2章
31②
しおりを挟むミュラー一族がこの土地から居なくならない限りドッカ王国としては労せずにこの地に眠る魔物を大人しくさせておく事が出来る上に、王家の手間が省けるから――ドッカ王家にも自分達と同じ様に『乙女』の血が流れているので当然彼等もまた『守り人』の資格がある。
初代王家を嫌っている獣王も流石に乙女の血筋の子孫を無碍にはしないし、彼を大人しくさせる力がある事は理解しているらしい。
それでも過去、己の庇護下にある娘を手元から拐われた事を思い出すと今でも腹が立つらしく、もしアルフレッド達ミュラー家が絶えてしまえば自分達の代わりに王家が交代せざるを得ないのだが
『其れだけは絶対に嫌だ』
と。
獣王自身が顔を合わせる度に口にしている・・・
「山羊は頑固だからなぁ・・・」
ついポツリと零すアルフレッドは目の前で決意を新たにしているリリーベルに目を向ける。
「実の所、最近まで爵位を王家に返還するつもりで準備していた所だったんです」
「え? 何故ですか」
「見ての通り、ミュラー領はそもそも平地がほぼ無くて普通の農作物、特に小麦等もあまり育ちませんし、領として納める税そのものは毎年春に領民が揃って狩って来た魔獣をギルドに売っぱらった金なんですよ」
「ぇえ?」
「ミュラー家としての爵位なんかあるから領地税が高くなるんです。ですから私達にとって爵位は邪魔なモノでしかないんですよ。そもそもこんな辺鄙な土地なのに王都の中央貴族と同じ税率ですからね」
「それはいくらなんでも税率がおかしいのでは? 領地自体に収入がないのにですか?」
「ええ」
「この国は辺境貴族と中央貴族の領地税率そのものが違う筈です。ミュラー領はどう考えても辺境伯領のほうが近い場所です。その土地に中央貴族の税率を適応させるのはおかしいですね。王都や副王都の様に魔石による結界が張られていないんですから結界の維持費分は最低でも支払わなくてもいい筈です。それだけでも随分税率は下がるはずですが・・・うぅ~ん・・・」
そう言いながら考え込むリリーベルは元々王子妃教育を受けていたし、そもそも次期当主候補でもあったので国の資産運営に関しては普通の貴族のご令嬢よりかなり詳しかったりするのだ。
それと彼女の家が流通を扱う貴族家なのでそういう情報にも敏感なせいでもある。
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