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episode3 幸せになりたいなら、なりなさい

12話 スハイド公爵 

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 その場に現れたのは、青白い顔をした40歳位に見える男性だった。


 「グエン陛下、スハイド領へとご足労頂きありがとうございます」


 礼儀正しくグエンに向かって貴族の簡易な礼をする彼の姿はヒョロリと高く、羽織っている腰までの長さのマントは旅行者や冒険者がよく身につける、なめし革の丈夫なマントで貴族が使うようなものではない。
 身につけている服は麻のようにざらついた素材のシャツと茶色いトラウザース、膝丈の革のブーツだった。

 これと言って特徴のない顔形かおかたちで、瞳の色も髪色も黒い為、前世の記憶があるミハイルミゲルには懐しく感じる色合いだ。


 「失礼ですが、この方々は?」


 声もこれと言って、特徴はないようである。


 「ああ、全員がギルド関連の奴らでスハイド公に用事があるらしい。身元は確かだから心配はいらん。俺が保証する」


 その言葉にギルド三人組が頭を下げる。

 彼が現れた後で、もう一度注文し直した珈琲を飲みながらニカッと笑う皇帝陛下。


 「それとな、コイツはミハイルつーんだが、アンタの遠い親戚筋に当たる男だから、俺なんかよりもっとずっと安心だぜ」


 男性は驚いた顔をして、茶髪に薄茶の瞳の青年を振り返った。


 「恐らく閣下の母方にご縁があります」


 そう言って立ち上がり、手を差し出しながら己の色を黒髪と濃紺の瞳にもどす


 「ああ、なんと・・・ ハイドランジアの・・・」


 個室ではあるが、口元に人差し指を当てるミゲル。


 「はじめまして、この領地を任されているメイソン・シャガル・スハイドです」


 そう言って差し出された手を握る公爵。


 一瞬後に彼の姿は輝くような金髪と、その握手の相手である青年とほぼ同じ濃紺の瞳になった。

 そしてラピスラズリのような彼の瞳には小さな金色の星が浮かんでいた。


××××××××××


 「ご存知でしょうが元々私は領主館には住んでいないのですよ」


  認識阻害の魔法を解きソファーに座るスハイド公爵は最初見た印象とは違って男らしい精悍で整った顔をしている。
 身体つきはどちらかというと騎士のようにがっちりとしており、所作は洗練されていて年齢は初見からいうと10歳くらい若く見え、カップを傾ける姿は優雅であり部屋に入ってきた時とは全く別人だった。



 「ジャージル国王からの書状はどうやって受け取るのですか?」


 セインが疑問に思ったことを口にすると、聞かれた公爵は少しだけ微笑み


 「領主館には代官を在中させています。私自身は個人の持ち物である別荘に住んでおり、信頼できる腹心以外は会うことはありません。領主館に届いた書状は何人もの手を経て、私のもとに運ばれてきます。その為私がどこに住んでいるのかは王宮の官吏達も義兄である国王も知りません。最も義兄は私が何処にいるか気にしたことは一度もありませんがね。しかし彼には幼いころから何度も殺されかけましたので、そう簡単には見つからないように気を付けていますよ」


 そう事も無げに言うと珈琲を一口飲んだ。


 「相変わらずだなぁ~。食えねえやつだよ」


 ハハハと笑う皇帝グエン。


 「あなたにそう言われるのは光栄ですね」


 ニコニコ笑う公爵閣下。

 中々一筋縄ではいかなそうな雰囲気の公爵に、ギルドマスターの二人は思わず安堵のため息をついた。

 グエンから聞く話が陰惨なものばかりだった為、多少なりとも最初の隠蔽魔法で作られた印象に近い、オドオドした人物像を勝手に頭の中に構築しつつあったからである。

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