【完結】距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado

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188 美貌の青年

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 その青年は黒髪で、細身でスラリとした体つきをしていた。

 女性と見間違えそうな美貌だったが、声は確かに男性のもので


「お嬢さん ダンスを申し込んでも宜しいでしょうか?」


 落ち着いた声は少しハスキーで、温かみのある榛色の瞳の持ち主だった。



 ×××



 「え、私ですか?」


 キョトンとした顔のフロイラインにニッコリと微笑み返す美貌の青年。

 白磁のようにキメの細かい肌にスッと通った鼻筋に高い鼻梁。

 形の良い顎に薄い唇。

 切れ長の目は涼しげで優しそうに見える。

 彼の榛色の目には面白がる様な光が見え隠れしている様な気がした。


「えーと、ダンスがあまり上手でないんですが・・・」


 そう言いながら


『大丈夫、この顔は攻略対象じゃないわ』


 と、フロイラインは抜け目なく確認する。


 学園でもダンスの授業は社交術の授業時間に組み込まれているので運動神経は良い方に軍配が上がるフロイラインは、一応それらしく踊れるようにはなったのだ。

 しかし未だに簡単なステップしか踊れない上にパートナーの足を1曲のダンスにつき3回は踏んづける事に定評があるという仕上がりだ。


「下手なので貴方様の足を踏んでしまうと思うのですが?」

「大丈夫。

 任せてそういうの得意だから」


 ニコリと笑う美貌の青年に周りにいた女性達が頬を染めて若干動揺した気がした。



 ×××



 「ほんとに大丈夫ですか?」


 曲が途切れることなく奏でられる中、青年に伴われてホールの中央に近づいていく。

 フフフと意味ありげに微笑んだ後で、彼はフロイラインの腰に右手を置いて左手は彼女の右手を軽く支える。


「最初は誰だって初心者だよ?

 ほら、あの子たち見てご覧よ」


 彼が視線で示す方向にいるのは貴族の子供達。

 多分5、6歳だろうが笑いながら拙いステップを踏んでいるのがよく分かる。

 時折お互いがぶつかったり足を踏んづけたりするが、そのたびに笑い合うので周りの大人も微笑ましそうに見守っている。


「ダンスは楽しむのが一番じゃないかな?」


 彼がそう言いながら、曲に合わせて最初の1歩目の大きいステップを踏むのにつられてフロイラインも動き出す。

 2歩目はライズ。

 3歩目はそのままロアーへと自然に導かれ、気がつけば大勢の貴族達に混じって彼女は笑いながら踊っていた。


「あ」

「大丈夫、避けた」


 彼はフロイラインの間違ったステップに合わせて、優雅に身体をスィングさせて上手くハイヒール攻撃を避けるとニコリと笑う。


「失敗しても大丈夫だからね」


 何処かで見たような気がする笑顔だったが、キラキラとしたプリズムの輝きがまるで夢の中にいるように彼女の思考を鈍らせていったのである。



 ×××



 やがて曲の終わりが訪れ、互いに少し離れると礼儀に乗っ取ったお辞儀をする。

 彼は踊りの輪から彼女を連れ出しエスコートして礼儀正しく祖父の元に彼女を送り届けると、見た者を惹きつけるような優雅なお辞儀ボウアンドスクレープをした。






「これでこの国ともお別れになります。

 元気で」


 そう言うと彼女をフワリと抱きしめてニコリと笑って腕の中から離し、踵を返して出口へと去って行く。


「え? なにコレ」


 突然の出来事に呆然としたまま彼を見送るフロイラインの手の平に置かれた小さな革袋。


「いつの間に?」


 あっという間に去って行った黒髪の青年と、自分の手の中の小さな袋を慌てて見比べた。






 袋の中に収まっていたのはピンク色の輝きのダイヤの指輪と折り畳んだ鑑定書。


「え、これって・・・」


 鑑定書に記された、持ち主の名前は何故か『フロイライン・コックス』で。


 ピンクダイヤはローズマリーの一番好んだ宝石だった――


『まさか、お母様?!』







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