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180 雪
しおりを挟むレイモンドはリアーヌの言葉を、咀嚼するように考えながら
「クリスマスケーキねえ・・・
よく売れるのは24日迄って事かな?」
と、妻の手を何となく握る。
「まぁ、失礼な言い方だけどそういう意味よねぇ、確かに23歳過ぎたら女の子って顔付きも体型も随分変わっちゃう人って多いんだけど、そのせいかも。
男の人って見た目に弱いって昔から言うじゃん?
か弱そうで華奢な子がいいってさ」
「ウーン、確かにそう言う人が多い気がするね」
「だから華奢で可愛くに見えるうちに嫁に行けって、なんだか女性蔑視よね?」
プンプン怒るリアーヌに苦笑しながら、
「皆が皆そういう訳じゃないよ」
そう言って彼女の頬にキスをした。
×××
ひとしきりレイモンドの甘過ぎるキス攻撃を受けて顔が赤いままで話の続きをするリアーヌ・・・
「前世の母は早く結婚して欲しいとか、誰かいい人居ないのかとかそういった事は私に向かって何も言わなかったけど一人娘だったから心配はさせてたと思うのよ。
今さらだから仕方ないんだけど。
親の言う通り真面目にずっと生きるのが楽だったっていうのもあるけど、異性に興味を持ってなかったかっていうとそうじゃないのよね。
人並みに『お付き合い』ってのをしてみたいっていう思いもあったんだけど」
「けど?」
「アプローチしたい相手も、してくれる相手もいなかったし。
恋の仕方はもっとわからなかったのよ。
このままだとお見合いかしら? って思ってるうちにこの世界に来ちゃってたのよね」
ううーんと首を傾げるリアーヌに何とも言えない微笑みを返すレイモンド。
「・・・それは俺にとっては実に僥倖だね。
この世界じゃないと多分俺は君に一生会えなかった」
「レイは前世でもモテてたでしょ?
今の顔と前世の顔があんまり変わってないって言ってたじゃない?
ゲーム上のキャラと似てるって日本だったらすっごい美形じゃん?
私なんか今と全然違うもの。
純日本人って感じでさ。
黒髪に黒い目で前髪ぱっつんの髪型だったし。
きっと昔のわたしとレイが町中で会ったって分からないと思うわ」
「うーん、どうなんだろう?
そこは分かんないかなぁ。
でも結婚したいって思える様な娘は全然いなかった。
今生でもずっと一緒にいたいのはリアだけだよ?」
死因が女性絡みの刺殺だったとは口が裂けても言えないな、と思いながら照れて真っ赤になるリアーヌを見つめながらレイモンドは微笑んだが、
『そうなると、この世界に来た切っ掛けのあの女にも感謝かな?』
と彼が思ったのは間違いない。
「クシュンッ!!」
書類整理をしていたシルビアが急に背筋に悪寒を感じてくしゃみをした。
「ヤダ、あんた風引いたんじゃない?
そろそろ雪が降りそうな天気だし。
残業しないでサッサと帰ろうよ」
いつもの同僚が横の席で、そう言った。
「うーん?
急に寒さを感じただけだと思うわ、本当に降りそうだもの」
そう言いながら書類の角を揃えるように机の上で『トントン』と音を立てて窓の外に視線を向ける。
窓から見える曇天は厚く、空の青色は一切見えず気温は足先が痺れる様に低い。
「ま、サッサと寮に戻ってケーキよケーキ」
友人でもある同僚は、又殿下の護衛の途中でちゃっかり菓子を買ってきたらしい。
「バレたらどうすんの?」
「みんなやってるし、殿下も知ってるわよ?」
「え」
「自分の分も買ってこいってよく言われるもん。
お金も渡してくるわよ?」
「殿下ってこの半年で随分変わったわね」
「柔らかくなってるっていうのかしらね、護衛の私達の気持ちとかもちゃんと考えてる気がするねぇ」
『相手の気持ちを考えるか・・・』
シルビアは窓の外に広がる今にも降り出しそうな雪雲に目を向けた。
グレーに見える背景になにか白いものがフワリと舞った。
「あ、雪だ」
「え、あやっば早く帰ろう。
やっぱ、残業なんかナシよナシ!」
2人は手早く提出用の書類を封筒に入れて同時に席を立った。
花弁のような雪が、窓の外でまるで踊るように風に舞っていた――
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