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171 百聞は一見にしかず

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 自分の妻は方向音痴だったかも知れないと疑問に思いながらも、顔はニコリと微笑むレイモンド。


「あら~、いい男だねぇ、お嬢様の旦那様かい?」


 犯人にほんのさっきまで容赦なく蹴りを入れていたお姉様オバチャン方がリアーヌの腰を抱いた、イケメンに注目する。


「妻がお世話になったようで。

 ありがとうございます」


 どう見ても高位貴族の青年であるレイモンドが微笑みながら丁寧に礼を述べると流石のお姉様方も恐縮した様だが、若干頰をピンク色に染めるのがじつに微笑ましい・・・・・・(?)


「あら~、私らは、なんにもお世話もしてないわよ~。

 お付きの方達が強かったからねえ~」

「そうそう、奥様が怪我してるからって犯人を魔法で治してあげてねぇ、女神様みたいな奥様で旦那さんったら、幸せだわよ~」


 おばちゃん達がキャッキャと盛り上がる。


「そうですか」


 とニッコリ人好きのする笑顔を顔に貼り付けるイケメンレイモンドに更に盛り上がるおばちゃん達・・・


 あのおばちゃん達、なにもしてないどころか怪我が治ったばかりの犯人を足蹴にしていたような気がするぞ?

 と野次馬の中の何人かが首を傾げていたが、口を噤んでいたのは絶対強者のお姉様オバチャンパワーに負けるからであろう・・・。



 ×××



 野次馬の波がやっと動き出し、取り残されるリアーヌ達。


「レイはどうしてここにいたの?」

「ここに居た訳じゃないよ。

 リアが水魔法を使ったのと、殿下が近くにいるのがわかったから跳んできた」


 そう言ってリアーヌの眼の前で指輪のはまった手をヒラヒラとさせるレイモンド。


「あ、そうだったわ、また忘れてた」

「まぁ、俺が覚えてたら良いだけだから気にしなくていいよ」


 周りを気にせずにイチャコラ会話する若夫婦に向かってマーサが


「お二人共お屋敷に帰りませんか?」


 生温い眼差しを送りながらそう言った。







「へえー、フラメア補佐官の結婚した相手ってホントにコンフォート様だったんだ。

 あの付き纏う女には超絶冷たいフラメア卿がベッタベタじゃん?!」

「結婚したって嘘だ~!? って思ってたけど、アレ見たらねぇ?

 信じるしか無いっしょ? あーあ完敗だわよー」

「スゲ~。美男美女カップルじゃん~ いいな~ 悔しいけど眼福じゃん」

「ねー、アレって略奪婚なのかなぁ?」

「え、殿下がフラメア卿に負けたの?」

「殿下はアレだよ、まだ子供だしさ。

 コンフォート様にフラれるの当たり前じゃん?

 比べてフラメア卿は大人だしさぁ」

「「そうよねー」」

「しいーッ! やかましいッ!

 バレたら怖いから静かにしろッ!

 フラメア卿怒らすと怖いんだぞ?

 お前ら分かって無いだろッ」


 ビビる上司と、建物の影から覗く魔塔の魔術師達。

 実に姦しい・・・


 建物の陰から覗く彼らの最後尾で怖いもの見たさでレイモンドとリアーヌを見つめているシルビア嬢は、


『レイモンド様の結婚相手はリアーヌ様だったのね。

 監禁エンドじゃ無いわよね・・・?!

 違うわよねッ?!』


 顔色悪く若干小刻みに震えていたらしい・・・



 ×××



 レイモンドにヨハンが近付き、騎士の礼をする。


「フラメア卿、実は殿下がコックス嬢の事務所にいるんですが・・・」

「ああ、知ってるよ。

 もう王城には報告済みだ。。

 帝国の皇女殿下に対する護衛は近衛ではなく魔塔から魔術師を配属させる事になったから安心して城に殿下と共に帰ってくれ。

 既にあそこに到着済みだからね」


 妻の腰を抱いたままのレイモンドが、ほんの数メートル離れた建物の影に隠れる魔女達を指差した。


「「「「「「ヒェッ! 気づかれてた」」」」」」


 彼らが飛び上がったのは間違い無い。

 そして・・・


『やっぱり怖いぃい!!』


 声なき声で叫んだのは勿論シルビア嬢だった。



 
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