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170 騎士団送り
しおりを挟むワイワイと騒がしい人だかりの中で憲兵の到着を待っていると、リアーヌの胸元の護符が急にチカチカと黄色く光り始めた。
「あらやだ、殿下が近くにいるのかしら?」
急に眉根が寄ってしまうリアーヌ。
「あぁ、そう言えばハンスがコックス様の事務所に殿下と側近候補がいるって言ってましたね」
忘れてたとマーサが呑気にそう言った。
「困ったわ。
早く憲兵の方達が来てくれないかしら。
殿下に会いたくないんだけど」
会えるわけないじゃないですか~ とマーサが小さな声で呟いたのをリアーヌは聞いていなかった。
×××
「な、何故下に降りられないんだッ!?」
その頃ハロルド殿下は、ドアを出て直ぐの階段の降り口でジタバタしていた。
彼はワンピース姿なので、何ともお淑やかさからは懸け離れた、どっちかと言うとはしたない女の子に見えるのだが中身はれっきとした男の子なので、その辺りは本人がよく分かっていないので仕方が無い・・・
「それ以上進めないんですか?」
先立って階段を降りていたヨハンがハロルドの元に戻ってきた。
「ハッ! この感じ。
リアーヌが近くに居いるに違いない!」
ぐぬぬ、と目に見えない壁を両手で押しやるのだが、ボヨヨ~ンと押し返され尻餅をつく男の娘・・・。
「あ~成る程。
では殿下はそのままお待ち下さい。
私が下に降りて説明してきますから」
スタタタ~ と軽やかに階段を降りて行くヨハンをジト目で見送るハロルド殿下である。
×××
「おーい、憲兵連れてきたぞ~」
ガチャガチャと武具の音をさせながら、簡易の革鎧を着込んだ男達が城とは真反対の方角からやって来るのが見える。
事情聴取が面倒だが、このままこの場所で殿下と鉢合わせをするよりは憲兵の詰め所にでも移動したほうがマシだなとリアーヌは溜息を吐いたのだが・・・
「では、伯爵夫人の侍女殿がトドメをさしたと、」
「生きております」
シレッとマーサが訂正する。
「失礼。ゲフン。
では誘拐されそうになったというお嬢さんは?」
「ハイッ! 私です」
元気よく手を挙げるフロイライン。
実はヨハンとハンスを伴い、先程事務所から降りてきていた。
「あ~、嬢ちゃんか~・・・」
憲兵のリーダーらしき男が、渋顔になりながらフロイラインとヨハン子息の顔を交互に見て溜息を吐いた。
「前回と同じか?」
「恐らくは。
犯人は未だに捕まっていませんが」
答えるヨハン。
「騎士団からもそう聞いてる。
ヨシ、貴族絡みだからな。
コイツの身柄は騎士団に送れ」
窓に鉄格子のはまった護送馬車の中に気絶した男は乱暴に放り込まれた。
「この件はそのまま騎士団預かりとなりますので、我々憲兵からの事情聴取は御座いません。
御婦人方には、後日騎士団からの事情聴取があるかもしれませんが。
それでは」
爽やかな笑顔を残して去っていく憲兵達と護送馬車・・・
「ねえ、帰っちゃっていいのかしら?」
リアーヌの疑問に答えるのはヨハンである。
「実は前回のコックス嬢の誘拐未遂事件が殿下の婚約者候補を巡ってのイザコザが原因という疑いがあるので、今後似たような案件と判った場合、騎士団に直接犯人を送ることに決まったんですよ。
それよりも・・・」
「それよりも?」
「スタウト夫人がここにいらっしゃると殿下が階段の途中でつっかえて動けなくなるんですよね。
出来れば距離をとっていただければ私としては有り難いのですが・・・」
「・・・成る程。
この場に殿下がいないのはそういうことですか」
情けなく眉が下がる側近候補と、そうだった30メートルの壁があったんだわと納得のリアーヌである。
因みにマーサが後ろで呆れ顔になっているのには気が付かない。
まぁ、殿下は現在女装中なのでリアーヌ嬢と会うと違う意味で自分が大変だったかもしれないので、降りてこられないのは僥倖だな、とかヨハンは思っていたりする。
「こんな所でなに何してるのリア?」
不意に空気が揺らぎ、リアーヌの耳元で突然声がした。
「レイ?」
振り返らずとも分かる様なバリトンボイスの主はリアーヌの腰に手を回してガッチリ彼女を抱き寄せた。
勿論リアーヌの夫、レイモンドその人である。
「ただいまリア。
所でどうしたの? この人だかり」
レイモンドはコテンと首を傾げた後で、周りで成り行きを見守っていた野次馬達を見回した。
「フラウがまた拐われそうになったの」
眉を下げ困り顔になるリアーヌ。
「あらら。
で、君はどうしてその現場に?」
「レイを迎えに王城に行くつもりだったの」
『ここ城とは全く別方向じゃないかな?』
ひょっとして自分の妻は方向音痴だったかなと疑問に思いながらも、顔はニコリと微笑むレイモンドであった・・・
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