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158 皇太子殿下と皇女様
しおりを挟むカザフ帝国のセルゲイ皇太子は与えられた客室で仁王立ちで同腹の第2皇女マリーナの前に立つと、彼女の頭に拳骨を落とした。
「イタッ! 何するのよ兄様ッ!」
「馬鹿者ッ!
何故他国の王城の中を許可もないままでウロチョロするのだッ!」
「だって~。
ハロルド様を見に行きたいんだもん!」
「・・・ それでも許可も取らずに勝手に出歩くなッ!
自国の城ではない事をもっとちゃんと自覚しろっ!!
他国の機密に触れたらたとえ皇族でも処罰対象になりかねんのが何故分からんのだッ!! お前の頭は空っぽなのかッ?」
「イタタタタタタッ! 止めてぇ~!」
マリーナ皇女の頭を鷲掴みにして指先に力を入れる皇子殿下。
アイアンクローから逃れようとするマリーナ皇女は涙目である。
「昨日もそれヤラれて、跡がついたんだからッ!!
みっともなくて1日中フード被ってたんだからねッ!」
目を細めて両手で頭を庇いながら後退りをするマリーナを睨む兄。
「反省の色が見られんな・・・」
「だって、ハロルド様が素敵なんだもん!!」
セルゲイが溜息を吐いて頭を抱えると、許されたと勘違いした彼女は部屋を退出するためにジリジリとドアににじり寄るが・・・
「誰が説教が終わったと言った?」
「ぐえッ・・・」
ブラウスの襟首を捕まえられて変な声が出た。
「10歳にもなった淑女だからな、」
「?」
「こんなことはしたくなかったが。
初日から3日間お前の所業で胃が痛い『兄様』は、やり方を変えることにする」
「?」
セルゲイが『パチンッ』と指を鳴らすと、マリーナの体が宙を浮いた。
「きゃあッ! スケベッ!」
彼女の身体を捕まえて一気にスカートをめくると尻を叩きはじめる皇子殿下・・・
・・・コレハヒドイ
「何がスケベだッ! このマセガキがッ!!」
「痛いいい~~~ッ! お尻叩くのはやめてぇええええええッ!」
客室のドア前に立つ護衛騎士がギョッとしたが、
「またか・・・」
そう呟いて何も聞こえなかった様に前を向いて姿勢を正した。
×××
腫れ上がったお尻を庇う様にソファーの上5センチ位に浮いたまま
「ごめんなさい兄様・・・」
ショボーンとするマリーナを睨みながら、
「謝って済むもんじゃないんだぞ? 公式訪問ならまだしも非公式なお忍びなんだぞ?
オーツランド側が不審者としてお前を処罰しても帝国側は異議を唱えることすら出来ないんだ。
非公式な訪問は慎重に動かなければいけないと、母上や家庭教師達に教わっただろう?
何故好き勝手に動く?」
「・・・だって、オーツランド王国は前世で知ってたゲームに出てくる国なんだもん」
「それはお前から聞いたから知ってる。
だが、ここは現実世界であって仮想世界では無い。
物語に出てくる人物に会いたいというお前の欲だけで行動していい場所じゃないんだ。しかも・・・」
B5サイズのスケッチブックをジャケットの内側から取り出す皇太子。
それを見て顔色が真っ青になるマリーナ皇女。
「あああぁあッ!? いつの間にッ!」
「こんなものまで・・・ 貴様の頭の中身は腐っとるのかッ!?」
そこに描かれていたのはハロルド王子とセルゲイ皇太子が素っ裸でベッドで『ピーッ!』している姿・・・ マリーナ皇女の画力が素晴らしい事がよく分かる逸品。
・・・・・・コレマタヒドイ
「ちょっとした出来心でぇ~・・・ エヘ」
「・・・ 他国の王子殿下と自国の次期皇帝だぞ? 本当に分かってるのか?」
「・・・・・・」
兄の額に幻の縦線が見えた気がして無言になり横を向くマリーナ皇女。
顔色は非常に宜しく無い・・・
「この手の絵をハロルド殿に見られたら婚約の申し込みなど絶対に無理だ」
「えッ?! 何でッ? ただの趣味じゃん」
「当たり前だろうがッ!
不敬過ぎだッ!
もしこの絵が父上だったりしたらお前の首が飛ぶわッ!!」
「えぇッ!!」
顔色真っ青なマリーナ皇女。
実は自国でもこっそり描いていて、それなりに侍女やメイド達にBLファンがいて需要があったのだが・・・
妄想の人物、例えモデルがいても分からない様に誤魔化しているのならまだしも、モデルに忠実に描くのはよろしく無い。
しかも身分の高い方々だった事に配慮出来ていなかった事に気が付かなかった様である。
「良くても修道院行きか、幽閉だなぁ」
「えええええぇえッ!! そんなッ! ハロルド様にバレちゃったのにッ!」
「・・・? ナンダト?」
再び客室から悲惨な声が聞こえた気がしたが、
『鶴亀、鶴亀・・・・』
と。
前もって皇太子に言い含められていた帝国の護衛騎士は、知らぬ存ぜぬを貫き通す事にしたらしい・・・
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