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141 男爵令嬢と天井裏

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 リアーヌとレイモンドが新居でお互いの愛を深めている頃、此方学園領の私室で頭を悩ませながら手紙を読んでいるフロイライン。

 祖父アンソニーからの手紙は、領地でこれから新しく作るブランデーは販売出来る程の本数を揃えるのが難しいかもしれないという知らせだったのだ。

 ワイン用の葡萄をブランデー作りに回してしまうと、ワインの方がこれまでの産出量をかなり下回ってしまうらしい。

 そうなると領民達の生活が立ち行かなくなってしまう恐れがある事を祖父は危惧しているのだ。


「諦めるのは早いと思うのよね・・・」


 父が死ぬ前に作ろうとしていたというブランデーの味は、酔って風呂場で溺死して異世界で転生を果たした程の前世酒飲みだった花梨を唸らせるような素晴らしい出来だったのだ。

 寝かせておいた年数はフロイラインの年の数+1年ほど。

 彼女が母親のお腹に宿った事を知った父親がその年に作り始めたからである。

 
「15年近く寝かせてあの味・・・ 諦めるのはもったいないよ」


 あのままでも世に出せば絶対に売れるとフロイラインが確信しているのには訳がある。

 調べてみたところ実はこの国ワインやビール、ウィスキーは存在しているがブランデーは造られていなかったのだ。

 一応他国には存在しているのだが市場にはあまり出回っていないらしく国産しかもコックス産のブランデーを発売する事で一儲けしようとフロイラインは考えているのだ。


「ワインとは考え方を変えなくちゃね。

 少数限定販売方式でプレミア感を出して・・・」


 窓から見える三日月を睨みながら販売計画書をレポート用紙に纏め、更に同じ内容を祖父への手紙にも書いていく。


「くぅ~・・・

 スマホ欲しい~

 せめてFAX・・・

 コピー機も」


 ブツブツ呟きながらペンを走らせる。

 ある程度の魔力持ちで訓練さえすれば自分自身で魔鳥も生み出せるのだが、貴族なら入学前に習得するはずの様々な魔法の訓練をしないままで入学したフロイライン。

 偽両親がこの国の貴族の教育方法を知らなかった為、彼女は平民と同じように手紙を書いて郵便局に持っていき、局員の魔鳥に運んでもらうという方法を取っている。


「あーもう。

 自分で魔鳥を飛ばせたら郵便局に行く必要もないのになぁ」


 『チッ!』と舌打ちしながら書き上げた手紙を封筒に入れて糊を使って丁寧に封をしながら、明日、学園の購買部に行って切手を買おうと思いながら手紙を鞄に入れた。


「ハンスさん。

 明日城下の郵便局に寄ってから事務所に行きますから。

 宜しくね!」


 天井から


 『コンコン!』


 という音が返事の代わりに降ってきた。



 ×××



 先日のフロイライン拉致未遂事件の実行犯の男達5人は実刑判決となり強制労働所に収監されたが、真犯人は結局見つかってはいない。

 その為身の安全を考え学園から出ないという方法を事件後2週間ほど続けてみたが、それでは何の解決にもならない上にアルバイトにも行けないし恋愛相談所も閉めたままになってしまう。


 そこでリアーヌは、フロイラインに護衛をつければいいという結論に行き着いた。


「ハンスなら安心だし、もし同じようなことが起こったら今度は真犯人を捕まえてちょうだい」


 当分リアーヌは新居にかかりきりになるので、外出するような暇が無いため普段自分の護衛であるハンスに急遽フロイラインの護衛任務が与えられたのである。


「あ~・・・ ハイっす!」


 黒子の衣装のままで頷くハンスに


「えええぇえ・・・」


 若干フロイラインが驚きの声を上げ、顔を赤くしたのを誰も気が付かなかったらしい。






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