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131 へッ??
しおりを挟む宰相の至極ご尤もな発言を聞きながら、ますます表情から温度が消え失せていくレイモンドと対照的に顔が赤みを帯びてヒートアップしていくハロルド王子。
「リアーヌの相手は女性に乱暴という噂のある『氷の小侯爵』って言われてる男だろうッ!
彼女を大事にしなければ俺が黙っていないってことを教えてやるんだッ!」
いつの間にか彼にとってのレイモンドは女性に対して非道なことをする男だと脳内インプットされているようである。
×××
ハロルドがレイモンドの人柄や噂を集めた相手は王宮に務める上級下級関係なく侍女やメイド、後は侍従達だった。
しかも口の軽い比較的若い世代の者達だ。
王家の住居区である王宮に出入りできる彼らは漏れなく貴族家出身者である。
若い侍女やメイド達の中でレイモンドに言い寄り振られた経験のある者は
『何で振るのよッ!
こんなに綺麗な私をッ!』
という気持ちもあり腹いせに悪口を溜まり場で言い合うし、若い侍従達は冷たいクセに女性にモテるレイモンドに対する反抗心からちょっぴり盛った情報を殿下に伝える。
よくある、
『私1人くらいなら多少脚色してもいいじゃない!』
という気持ちの発言が積み重なった噂に尾鰭が付いた結果である。
更にオーツランド王国随一と言われる才色兼備なご令嬢(しかも富豪)と言われたリアーヌと結婚してしまったレイモンド。
面白半分やっかみ半分で尾鰭以外に胸鰭背鰭は勿論だが三脚巴まで生えそうな勢いで本人に面識の無い者達にまで面白おかしく噂が駆け巡ったのである。
実に間が悪いハロルド王子は、この一番『ホットな話題の人物像』しかも多大な脚色つきの噂を手に入れてしまった。
一番ホットな話題、しかも噂話というものは何であれ脚色が施されており、真実とは食い違うというのが往々にしてありがちである。
額面通り受け取っては騙されることもある事を、まだまだ若いハロルドは経験したことが無かったのである・・・
どこのお子様だッ!?―― 生憎彼はこの国の王子様である。
しかも残念ながら一粒種である。
教育係の今後の健闘を祈る。
×××
殿下の言い分をジッと聞いていた宰相が呆れ顔になる。
「殿下。その女性に乱暴っていう噂ですが、どこから仕入れて来たんですか?」
「どこからって、王宮侍女や侍従後メイド達だよッ」
「レイモンドの対応が女性に乱暴だというのなら、近衛騎士達は女性王族の護衛すら務まりません」
「へ?」
はぁ~・・・ と嘆息する宰相閣下。
「男女関係なくどんなに嫌いな奴でも笑顔で対応する男が何故女性に乱暴する男になるんでしょうかね?
おい、レイモンド」
「はい」
「え?」
自分のすぐ横から返事が降ってきたのでギョッとして振り返るハロルド。
レイモンドとハーヴィーは帰ろうとしてドアノブを掴む寸前だったので、当然ハロルド王子の直ぐ側に立っていたことになる。
「え、お前。
あの時の補佐官か?」
「?」
「フロイラインの事を騎士団に通報しろって言ってくれた・・・
あの時は助かったありがとうッ!!
お陰で彼女も無事で・・・」
「殿下。
その男がレイモンド・フラメアです」
宰相が実に頭が痛いといった様子で額に手を置いた。
「へッ??」
「どうも。
リアーヌの夫のレイモンド・フラメア改め、レイモンド・スタウトです」
「ひえッ・・・」
にっこりと人の良さそうな笑顔を貼り付けた整った顔が異様に迫力があるのは、多分きっと、ハロルドの気の所為である。
「殿下、そのデタラメな噂を鵜呑みにするのは殿下のご自由に。
但し王宮内の召使い達の質が落ちているのは間違いありません。
ソレは非常に問題ですね。
閣下?」
「そうだな」
宰相が重々しく頷いた。
「今度は王宮内の調査かよ・・・」
ハーヴィーが悲壮な顔をした。
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