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121 理久とレイモンド①※
しおりを挟む※R⑮センシティブな事に触れる文章が含まれますので、ご注意ください。
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レイモンドの綺麗な青い瞳が射抜くようにシルビアに向けられているのに気が付いて、彼女は肩をビクリとさせる。
「アンタ、昔の俺のことが好きだったってことなのか?」
「え、そんなの・・・ 当たり前じゃないの」
突然彼に質問され戸惑うシルビア。
「なんで当たり前なのさ? アンタ昔の俺に向かって『好き』だって一言も伝えて無いだろ?」
眉間のシワが一層深くなるレイモンド。
「え?」
「アンタから『付き合って欲しい』とかも全然聞いた覚えがないぞ?」
「え、だって手紙・・・ 」
「手紙でもそう言った内容の文は書いて無かったよな?」
×××
Mバーガーの全面ガラス張りのカウンター席でスマホをいじりながら、事務服姿の女性が隣に座る友人に声を掛けた。
「ねぇ、バーテン刺し殺しといて樹海で行方不明になったっつう女、名前なんだっけか忘れたけどさ~ あんたが辞めた会社の販売員じゃなかった?」
同じ制服を着た彼女はコーヒーを飲むのを止めてちょっと笑った。
「販売員って・・・ まあそうだけど。いたねぇ、昔そんなのが。
ちょっと顔が可愛いからって職場の男共がチヤホヤするから天狗になってた子でさ、自分からな~んのアプローチしなくても男は自分にすぐ惚れるからモテてるって思ってる勘違い女。
直ぐ一発ヤラしてくれるから確かに一部ヤローには人気女子だったみたいね」
「うっわ、イタい・・・」
「でさ、口開いたら事務の私らにはキッツい物言いのクセにイケメンには秋波送ってたらしいから事務所では評判最悪でさ。
フロアのサブチーフ任されてけど下の子達のレジ計上ちょろまかして自分の売り上げにしてたのバレてさぁ、現場の子達が怒って辞めちゃって人手不足になって現場大変だったんよね。
それでも元々の売上いいし顧客も多かったから社長も見ないふりしてたけど、結局あの事件じゃん?
さすがにドン引きよ」
「うえぇ、なんか話聞く限りヤバそうな感じ。まぁやった事考えればヤバい人か」
「パッと見はそんなふうには見えなかったけどね。
可愛らしい系の顔してたし、背が低くて華奢でお嬢様っぽい儚げなタイプかな」
「人は見かけじゃないってことよね~」
「ホントそう。なーんかさ合コンで会ったバーテンダーが自分のプレイしてたゲームキャラとソックリだったって舞い上がってさぁ、ホストクラブに通うためにレジ誤魔化してたって。マジ笑えたわ」
「え、ホストクラブ? しかもゲームキャラ? 現実離れしすぎでしょ?」
「そ~。ホストにつぎ込むってのは聞いたことあるけど、ホストクラブのバーテンに金つぎ込む? って思ったし、しかもゲームキャラってナニさ? って。
まあ確かに凄いイケメンだったからね。
可哀想に変なのに付き纏われた挙句殺されちゃって」
「そのイケメン見たことあるの?」
「合コンにいたからね。金髪でさ、一見白人なのよね。
本人曰く母親は生粋のフランス人で父親がクォーターだったかな? 父親が生粋の日本人じゃなかったから生まれた自分は白人みたいな見かけだって。
で、それがどうしたの?」
「あぁ、死体見つかったらしいよ」
そう言いながらスマホのページをめくる女性。
「へーよく見つかったね。指名手配される直前に車で逃げて行方不明だったよね。乗り捨てた車は見つかったけどさ」
「自衛隊が富士樹海での演習中に見つけたらしいよ。
奥に入ってきゃ首吊った死体なんかごまんとあるから普通は放置らしいけど、指名手配犯で割と手前の入り口付近だったから死体を運んだらしいね」
「うわ、迷惑。自衛隊乙だね」
「ほんとにねぇ~ 公務員乙だわ~」
×××
本当に自分に好意があった事が分からないのかと呆然とした顔をするシルビア。
「だって皆私が何も云わなくても直ぐに好きになって交際を申し込んで来たわ?」
その言葉に眉を顰めて呆れるレイモンド。
「アホか。そんな事あるわけ無いだろ。
言わなきゃ相手に気持ちなんか伝わるわけ無い。
彼のガールフレンド達は全員ちゃんと『付き合いたい』とか『寝たい』ってハッキリ言葉にして気持ちを伝えてきたから彼も彼女達に応えてたんだ」
「だったら!」
急に期待を込めた顔になりレイモンドを見上げるシルビア。
「言ったろ、理久が彼女達と付き合ったのは彼女達が自分でハッキリ気持ちを口にしたから応えたって。
御生憎様だが、今の俺は理久じゃない。
アンタが期待してるゲームキャラのレイモンドでもない」
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