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119 レイモンドと魔女③※
しおりを挟む※ストーカー行為に関する文章が含まれますご注意ください。
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その日の晩は月が出ていなかった。
兄のコレクションから手頃な物を持ち出して、家を出たらタクシーで彼の勤めているホストクラブの裏口が見張れる場所に向かった。
建物の陰に隠れて初めてレイ様に会った日のことを思い出していた。
×××
『翠川さーん、ちょっとお願いがあって』
事務所の女の子がある日声を掛けてきた。
『合コンの頭数が揃わなくって。翠川さん可愛いから座ってるだけでいいんで参加してくれませんかぁ?』
『事務より売り場はアップが遅いのよ? 21時になっちゃうけどいいの?』
『あ、大丈夫ですよ。あっちもアパレル絡みなんで集合が22時なんです。すっごいイケメンが混ざるって噂だから期待してて下さいね~』
平日の22時なんてねぇって思いながら退勤のタイムカードを押した後、教えられた居酒屋の場所にタクシーで向かった。
『厚木理久です。ただのピンチヒッターです宜しく』
にこやかに笑いながら私の斜め前に座った人はパッと見は外国人みたいだったけどハーフだと答えて周りの注目を浴びていた。
え、短大の頃に流行った乙女ゲーム『愛風呂』の裏ルート攻略対象のレイモンドにソックリじゃないッ?! 嘘ッ!? 私の最推しじゃん!! 私レイ様を見るためだけが目的で今もプレイしてるのよ?
よくよく見れば違うのは目の色だけ。
レイ様はサファイアブルー。
だけど彼の瞳の色はグレーと茶色と緑色が混じった所謂榛色だった。
でも顔も体格もソックリ。
緊張して喋れなくなったら気を使ってくれて何度か話しかけられた。
『勤め先? 水商売。
1次会が終わったらこの後出勤するんだよ。
残念ながら代打はここだけね。
アイツ2次会には来るらしいからさ』
『彼女は居るんですかぁ?』
私を誘った事務の女の子が質問攻めにするのを横で聞いていた。
『決まった彼女は居ない。作る気が全然ないから。気楽に遊べるガールフレンドだけかな』
『そのガールフレンドに混ぜてよ』『やめとけ、コイツ、マジでタラシだから』『やだ~ あははッ』『オレオレ、俺にしときなって~』『えー、じゃあさあ~・・・』
色んな声が飛び交う中、ますますゲームのレイ様そっくりだと思った。
表ルートでは悪役令嬢リアーヌに執着して、ヒロインが王子を攻略した後で攫って手に入れてしまうけど、彼には何人もセフレがいた。
魔女の中にも大勢彼と寝てる自称恋人がいたし、裏ルートではヒロインも孕むまで抱くのを止めなかった。
ヤンデレだとか腹黒だとかSNSで言われてたけど、それでも『愛風呂』ファンの間では人気が高かった。
×××
学生の頃から私に言い寄る男は多かったし社会人になった今でも夜のお誘いは多いけど、どの男も何だか気に入らなかったから未だに恋人はいない。
夏は汗臭いし、キスしたら口臭が気になって嫌だし、脛毛とか胸毛とか・・・ もういいわ。
だって2次元に比べたら、ねぇ。
でも目の前のレイはそんな男臭さなんか全然感じさせない絵画から出てきた様な綺麗な顔で、フワリと動くと爽やかな香りがするのよ? 男性用コロンってもっと男臭くなかったっけ?
『コロン使ってます?』
『いいえ。この後仕事なんで使ってないですね。柔軟剤かな?』
そう言って自分の袖を鼻先で匂いながら首を傾げるのがサマになってるってナニ?
『お仕事って水商売? でしたっけ』
『バーテンですね。食べるモノも扱うから匂いは邪魔になるので』
そう言って、ゲームでは見ることの無いフンワリ笑う笑顔が素敵で――
『いや、誕生日でもないし。受け取れないから』
『やーだ、リク君たら遠慮しちゃってさぁ~ ホストにさっさとなればいいのに』
『ダメダメ、リクがメンバー入りしたら俺がNo.1じゃなくなりそうじゃん』
『そんな訳無いわよ。ばっかねえ~』
『そうですよ』
『またまた~~』
カウンターに座る客とホストがバーテンの彼をからかいながら楽しそうに喋っているのを横目で眺める。
彼の勤めている場所はホストクラブでカウンターからほぼ出ることは無いけど顔が良くて女性に優しい彼のファンは多い。
ホストになればいいと言ったあの女性客も彼狙いだ。
『リクは彼女がいっぱいいるからね。満席だよ』
『え、ホントに?』
『ええ。お付き合いしてる方は多いですよ』
『えー彼女複数ってどうなのよ? アッチとかバッティングしないの?』
『そういうの気にしない人としか付き合えませんね』
『マジで? 凄い~』
『俺等より鬼畜よコイツ。俺等が女の子と付き合うのは仕事、コイツはプライベートだよ?』
『まぁそうですね』
『それでもいいって子が居るのが驚きよねぇ~~~』
やっぱりレイ様だ――
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