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117 レイモンドと魔女①

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 レイモンドが騎士団と共に手掛けていた偽の宝飾品事件――

 彼の役目は強面の騎士達に代わって貴族女性達からアクセサリーの購入時期や店を聞き出すのが役目であった。

 その際に、ある伯爵家の娘に接触したことがある。

 テレジア・ラジェフ。

 ラジェフ伯爵家の次女で17歳。


 リアーヌと同い年であり、彼女が飛び級で卒業していなければ同じ学年。

 聞き取り調査をしていた時に感じたのは爵位が高い男を狙っているのが透けて見える様な狡猾さのある『女』だった。

 但し、そんな女性は掃いて捨てるほど袖にしてきたレイモンドにとっては気にしなければいけないような存在では無かったので聞き取り調査後は放置した。

 直ぐに違うターゲットを見つけていなくなる事が判っていたからだ。

 実際レイモンドに全く付け入る隙がないと感じたらしいテレジアはその後全く接触して来る事は無くなった。


 問題はテレジアの姉、

 シルビア・ラジェフ

 彼女は魔塔の魔女の一人である。


 リアーヌを冤罪で嵌めた家名をレイモンドが尋ねた時に


『小説では一人だけ年上がいたわ。さっき話してたシルビアっていう魔塔の魔女だったはず。

 あの人何故か他の攻略対象の悪役令嬢なのに王子ルートにだけちらっと顔を出すのよね。

 ゲームには登場しなかったけど』


 という説明を聞いた時に、思い出したのが彼女だった。


 レイモンドが妹のテレジアに接触した際にラジェフ伯爵邸で一度顔を合わせた事があったのだが、その後なぜか彼女がレイモンドに付き纏い始めたのである。

 ハーヴィー補佐官曰く『笑顔で威嚇』で退散するのだが事あるごとにレイモンドに声を掛けて来るし、大した用件でもないのに宰相の執務室に押し掛けて来て他の補佐官と話をしつつジッと自分を見ていたりする事が何度もあり、イライラさせられた。

 流石に目に余る為、仕事の邪魔だと魔塔に宰相直々にいちゃもんをつけに行ったこともある位しつこかったが、この所の『叩き直し』騒ぎで魔法武官達が忙しかったのか、現れることはなかったのだが――



×××



 「うーわ、レイモンド君やっぱり本命はリア嬢だったんだねぇ。その魔石結晶の色、彼女の目の色まんまじゃん」


 昼休憩。

 王城の食堂でレイモンドの左手の指輪を目にしてハーヴィー補佐官がニヤつきながら彼の肩に手を回し耳元で囁いた。


「なんで・・・」

「そら、お前コックス家でリア嬢が攫われた時のお前の慌て様を見たら誰でも分かるさ。

 コンフォート邸っていえばフラメア家の隣じゃん。

 しかも昔っからの知り合いで最近意識したっつったら、あーた、ニブちんの俺でも分かりますってば」


 ヘラヘラ笑うハーヴィーにムッとするレイモンド。


「良かったな。結婚おめ!

 戸籍課の連中がバタついてたから何だろって思ってたけど、爵位授与の準備だってな。

 伯爵位なんだろ?」

「ああ。コンフォートの分家で跡継ぎも当主も居なくなったんで、公爵閣下預かりになってたやつが丁度いいからって賜ることになったんだ」

「姓も変わるんだろ?」

「ああ。職場では暫くこのままで通すけどな」

「伯爵家当主かー・・・」

「ん~ 実感はまだ全く無いよ。

 大体新婚なのに宰相府から全然出られないからな。

 会うこともできん」

「それ言っちゃ駄目~、俺も泣いちゃうよ。

 はうん・・・ 嫁ちゃん」


 二人で笑いながら、食べ終わった食器の乗ったトレイを持って移動しようとして、背中にじっとりとした視線が向けられたのに気がついた。


「また、あの魔女か・・・」

「あ、魔塔の・・・ シルビーとかいう」


 レイモンドが振り返ったのに気が付いたハーヴィーが食堂の入り口に立つシルビアを見つけ、眉を下げる。


「あの子もしつこいねえ・・・ 閣下が魔塔に文句言いに行ったのにさぁ。

 まだ懲りてないんだな。

 俺等の執務室に出禁になった筈だぞ?」

「ああ。

 このところ魔塔も忙しかったから見なかっただけかもな」

「なるほ・・・

 可哀想っちゃ可哀想だけど、まあレイモンド君はリア様一筋男だから諦めて貰うっきゃないっしょ」


 ハーヴィーが肩を竦めているうちに彼女は魔術師のマントを翻して去って行った。


「アイツだ・・・」

「どったの? レイモンド」


 眉間にシワを寄せるレイモンドの顔にハーヴィーは首を捻ると


「ま、そのうち諦めるって。君、もう既婚者だからねえ」


 と言って笑った。



 そして午後休憩の時間―― 






 レイモンドは魔塔の中庭で、冷気を纏い振り返ると


「アンタ。付き纏った挙句に又俺の背中を刺すつもりか?」


 と、後ろにいたシルビアに向けて己の冷気から生まれた氷の矢を彼女の足元に放った。

 氷の矢は瞬時に辺りの地面に飛び散り周囲を凍らせていく。


「前世だけでは飽き足らず、今生でも俺を殺すのか?

 それならお返しに今度は俺がお前を殺してやるよ。

 『翠川久子』だろアンタ」









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