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107 男爵令嬢と間諜と・・・
しおりを挟む馬車溜りに止まっていた公爵家のお忍び用の馬車の御者台にいたハンスと、横に座る御者に事の次第を伝えるフロイライン。
「て、ことで。リアちゃんはレイモンドさんと一緒に先に公爵邸に帰りました」
「あ、なるほどね、分かったっス。王子達に無用な詮索されたくないって事っスね?」
「ですです。じゃ、私は学園に帰るので、ハンスさんとマーサさんはこのまま公爵邸に戻ってください」
「了解っす」
白い開襟シャツに鞣革のベスト。黒いトラウザースにチェック柄のハンチングを被ったハンスはどこにでもいそうな特徴のない顔をした若者で、いつもの黒子の格好のほうがインパクトがあるよな~と、思ったフロイライン。
リアーヌとレイモンドの事を伝えると学園に帰るための通りを歩き出し、馬車はそのすぐ直後出発して反対側の通りに消えていった。
「あ、学園に帰る方角だ」
と。
ヨハンが呟いた途端、曲がり角から身なりの良くない男達5人が急に現れてフロイラインの腕をつかんだのが見えた。
「「「「「えぇッ?」」」」」
驚いた殿下達5人だったが、次の瞬間
「ちょっとッ! なにすんのよッ! 触んないでよッ!」
という彼女の叫び声が通りに響き慌てて走り出す。
「フラウッ!」
「「「「コックス嬢ッ!」」」」
5人の男達のうち一人はフロイラインの腕をつかんでそのまま担ぎ上げる。
「ぎゃあああぁあッ! はなせッ! やめーーーッ!」
ヒロインらしくない叫び声をあげて男の肩の上でバタバタと暴れるフロイライン。
残りの4人は自分たちの方に走ってくる若者達に気が付いて
「「「「じゃますんじゃねーよッ!」」」」
邪魔をしようとする王子達を迎え撃つためにナイフを手にして横並びになりニヤついた。
「ケガしたくなけりゃ、大人しくするんだな。命まで取ろうってんじゃないんだ」
フロイラインを担いだ男が肩で暴れる彼女を丸太のように担ぎなおしながら、
「お前さんがキレイな身体じゃあ都合が悪いらしいんだ」
髭面の男が、ニヤリと笑い、
「運が悪かっ・・・ おえッ」
・・・・・・ そのまま、顔が地面にめり込んだ。
×××
放り出されたフロイラインはそのまま宙を浮いて、見慣れないに男にポスンッ! とキャッチされた。
「あーやだやだ。ぶっさいくで臭いオッサンなんか触りたくねー。ほんと勘弁してよ。アンタ大丈夫?」
「ッ!?」
恐る恐る見上げたフロイラインの目に映ったのは、紫の瞳。
若干吊り目で鼻筋はすっと通って高い鼻梁は格好が良く、彫りが深い顔立ちは前世のイスラム圏辺りの人間だと彼女は思った。
黒髪が艶々していて、スッキリと後ろに流してあるのがよく似合っている。
浅黒い肌をした異国の青年は軽々とフロイラインを横抱きにしたまま、地面と熱烈な接吻中の男の背中を片足で思い切り踏みつけて
「ぎゃッ!・・・」
気絶させた?―― 魔法だろうかとフロイラインは首を傾げた。
「はいはい、そこの4人。いくら何でもこの国の王子殿下をナイフで脅すなんて縛り首じゃすまないっスよ」
その言葉遣いは・・・
「ハンスさんッ!?」
ちらりと紫の瞳がこちらを見てウィンクした。
「なんか、や~な感じがして帰ってきてよかったよ。案の定、殿下の争奪戦に巻き込まれたみたいだな」
「争奪戦?!」
ハンスはこっちに向かって飛んできたナイフを足で蹴り落としながら
「そ。殿下の婚約者っていう椅子取りゲーム」
と、襲ってきた男をひらりとかわすと蹴り飛ばす。
「お嬢の後釜になりたいお嬢さん達の仕業だよ。アンタが邪魔だって思ったんじゃねーの?」
つんのめって転んだ男は地面から突然生えてきた茨に巻き付かれて身動きが取れなくなった。
「はいはい、めんどくさい連中はキレイなお花とでも仲良くしてなッ」
残り3人も伸びてきた茨にひっかかって転倒させられ全員仲良く地面と接吻中だ。
地面から伸びてきた茨は5人の暴漢を次々と拘束していき、最後にぼんッという音をさせて黄色いバラが咲いた。
「はい、おしまい」
その時一緒にフロイラインの心にもピンク色のかぐわしい薔薇が咲いたのは・・・
まぁ、吊り橋効果かもしれない。
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