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92 リアとレイ
しおりを挟む取り残された二人だったが、冷たいはずの地下室の周りの空気が少しずつ暖かく・・・ いや、熱くなって来たような気がして周りを見回した。
「取り敢えず、リア此方向いて」
『うん』
手枷をはめられた状態でレイモンドはリアーヌの猿轡を何とか外し
「逃げなきゃいけないからな」
そう言って、自分の頭近くにある窓の側に歩いていく。
「レイも一緒に逃げなくちゃ!」
「分かってるから落ち着け。いいか、この窓ならリアは通り抜けられるはずだから俺が肩車してお前を持ち上げるから、頭が窓の外に出たら大声で助けを呼ぶんだ」
「レイは?」
「俺は余力があれば助けてもらうから大丈夫だ。ほら俺の肩に・・・」
その時、更に爆破音が地下室にまで聞こえてきた。
「時間がなさそうだから急ぐぞリア」
「う・・・ うん。ごめんねレイ、巻き込んじゃって・・・」
低い天井からパラパラと煉瓦の屑らしきモノが落ちてくる。
「お前のせいじゃないよ。魔法が使えないのが不便だな。しかも手も上手く使えないとなるとどうやってリアを担ぐかな・・・」
両手を拘束している手枷は所謂手錠の形をしているが両手の輪を繋ぐのは鎖ではなく大きな金属の輪が一つだけ。
そのせいで手の自由がほぼ利かない作りになっている為レイモンドは首を傾げた。
「リアに足を広げて立って貰って、股の間に俺が頭を突っ込んで肩で持ち上げるしか・・・」
そこまで言ってリアーヌの顔がふと見え、しまったと思う反面、顔がニヤけそうになるレイモンドは慌てて口をへの字に曲げた。
リアーヌがレイモンドの言葉を反芻しながら顔どころか首まで真っ赤になっていたからである・・・
「え、ちょっと・・・ えーでも・・・」
「恥ずかしいのかリア?」
「当たり前じゃないのぉ・・・」
真っ赤になりながら半泣きの彼女の顔がなんでこんなに可愛いのか・・・ ちょっと自分の性癖がオカシイのかもと思わず頭を振るレイモンド。
「命かかってるからリア、お願い! 幸いリアの格好がスカートじゃないから下着は見えないし・・・」
と言っては、又恥ずかしそうなリアーヌの顔がツボにはまってニヤけそうになる自分――そんな場合かよッ!―― 思わず自分の頭を壁にぶつけてしまうレイモンド。
『ゴンッ!』
「ちょッ、ちょっとレイッ?! どうしたの」
「今ちょっと、三途の川が見えた・・・」
強くぶつけすぎて、壁のザラつきで額に擦り傷が出来てしまった。
「やだ、傷が! レイの顔が勿体ないッ!」
「俺の顔が好きなの?」
「え、も、勿論よ・・・」
顔じゃなくてレイモンドが好きなのだと言えばいいのに、思わず口籠る辺りが前世を含めても恋愛経験値皆無という乙女心の悲しさである。
それでもちょっと嬉しそうな顔になるレイモンド。
「ここから無事に生きて出られなかったら、一生言えないかも知れないから今言っとくね」
その時近くで爆発音が聞こえ天井に亀裂が走って天井の一部がガラガラと音を立てて落ちてきた。
「きゃあッ!?」
思わずレイモンドに身を寄せるリアーヌの耳元で、
「愛してるよ、ずっと君に言いたかった。君を俺がそんな目で見てたの気が付かなかったでしょ?」
甘い囁きが聞こえて思わず彼の顔を見上げて首を傾げる。
「え?」
「今は返事しなくていいから。兎に角急ぐよリア足開いて立って! ココがいつまでもつか分からないからッ!」
「え、あ、ハイ」
レイモンドがゲームと同じ台詞を口にした事に気付いたリアーヌは、呆然としたまま彼の言葉に頷いた――
×××
「もうちょっとッ!」
地下室の天井が低い上に、窓に格子がはまっていない観音開きの鎧戸だったのが幸いし開けることに成功してリアーヌがレイモンドの肩に跨ってなんとか明かり取りの窓から頭を出した。
「誰かっ! 助けてッ!!」
「おーい誰かいないかッ!」
リアーヌの下からレイモンドも声を上げる。
「ああああぁあああっ!! コンフォート嬢ッ!!」
「アンダーソン隊長ッ! 見つけましたッ ご令嬢ですッ!」
でっかい声と数人の足音が聞こえて来る。
「早くッ! こっちよ! 助けてぇ!」
「おーい早く引っ張り出してくれッ!」
数人の騎士達が走ってくるのが暗い中でもよく分かるのは屋敷から火が上がっているせいで、辺りには薄く煙も流れていて一刻も早く逃げなければいけない状況だという事がひしひしと伝わってくる。
駆けつけた騎士達が慌ててリアーヌを引っ張り出す。
「急げッ! 彼女を引っ張り出したら退避するんだッ」
地下でレイモンドの声がする。
「ええッ? フラメア補佐官ッ?」
「なんでそんなとこにいるのさ君ッ?!」
「ハーヴィッ! 兎に角リアを連れて逃げろッ! ヤバい天井が崩れるッ」
「駄目よレイッ!」
その時。
『ドッガーーーーーン!!』
彼らの近くで何回目かの爆発が起こり、
『ドンッ! ドンッ! ドンッ!』
という連続した爆音が続き、それによって勢いを増した爆風によって前のめりになって騎士達と一緒にリアーヌは吹き飛ばされた。
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