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87 枷②

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 猿轡をはめられて肩に担がれたままで床しか見えない状況のまま頭の中で思考が、そして目がグルグル回るリアーヌ。


『何処に行くのかしら・・・、どうでもいいけどこの人、女性よね?

 何だってこんなに力持ちなのかしら? 背も女性にしては高いし、ひょっとして人外? 魔人? なわけ無いかアレはおとぎ話よね

 もしかして身体強化の魔法でも使ってるのかしら?』


 見た感じ背が高いというだけで華奢な体つきのローズマリーにこんな馬鹿力があるとは信じ難かったが、実際に軽々と運ばれているのだ。

 筋肉もあまりなさそうなその背中を時折首を動かして見ようとするが、あっさりヨイショと言わんばかりに担ぎ直され、その度に鳩尾に彼女の肩が当たって『オエッ』っとえづきそうになるリアーヌ。


「ま、逃げ切ったらアンタはお払い箱だから安心しな。

 私はダンと違って殺しは好きじゃないから。

 ああ、ダンっていうのは当主のフリしてた男の事さ」


 フフフッとかすかに彼女が笑った。


『この感じ、夫婦じゃないんだわ』


 思わず、床に向けていた視線を自分を担いで歩くローズマリーの背中に向けると、


「ハハッ、アンタどうやら気がついたみたいだね。

 アイツと夫婦だって思ってたんだろう? 

 何かというと直ぐ殺しちまうからねアイツはさ、そこがちっとばかし意見が合わなかったねえ。

 長い付き合いだったけど、もう潮時さ。この土地に12年もいたんだよ。

 本当ならさっさと2年くらい前に逃げてたんだ。

 アイツが無類のワイン好きだったから、出て行かなかっただけだよ」


 そう言って彼女はケラケラと笑う。


「まぁ、私自身は綺麗なモノや可愛らしいモノが好きだからね。

 突然できた可愛らしい娘をアレコレ着飾って楽しむっていう事も出来たから、決して悪い12年では無かったけどね。小遣い稼ぎもできたしさ。

 でもまあ、あの子も王都に行っちまったからねえ。

 上手く高位貴族の嫁にでもなって王都の貴族と顔が繋がれば仕事の販路も広がるかもっていう欲をダンが出し始めちゃったし。

 私もいっそ王族に嫁いじまえば左団扇で暮らせるかもって思ったりしてたから、今考えるとちょっとばかり頭がどうかしてたと思うよ。なんでだか分からないけどさ」

『どういう事なのかしら?』


 ローズマリーの言うことが少し不思議だったリアーヌは首を傾げた。


「赤の他人同士でも12年家族ゴッコなんかしたら情も湧くもんだろ?

 小さい体で『お父様』『お母様』って懐かれちまってさ、いつの間にかダンも自分もあの娘と家族みたいな感覚になってたってことなんだろうね。

 悪人のくせにおかしな話だろ?」

『・・・え? 花梨、じゃなかったフロイラインと家族みたいな感覚になってたって事かしら?』

「根無し草だから余計に家族ゴッコに嵌まっちまったのかもしれないねえ・・・ ダンも私もさ・・・ 

 ま、所詮詐欺師なんぞやってる連中がマトモに暮らそうったって無理ってことさ」

「・・・・・・」


 誰に聞かせるでも無くローズマリーはそう呟きながら迷いなく暗い廊下を進んで行った。



 ×××



 その頃フロイラインの私室に戻ったレイモンドは、そこにいるはずのリアーヌの姿が見えない事に焦っていた。


「ま~たどっかに行っちまったんじゃないだろうな? ・・・ん?」


 ティーテーブルの足元に銀色に輝く物が見えた気がしてしゃがみ込むと、毛足の長い絨毯に埋まるようにひっそりとあったソレは、自分が作ったリアーヌのイフェイオンを模った護符。


「!」


 ソレを手に取って眉根を寄せる。


「リアがコレを落とす? あんなに気に入っていたのにそんな事があるはずがないだろ・・・?」


 花のお守りを拾い上げて手に包むように持つと、目を閉じて額に集中するレイモンド。

 サイコメトリーと言われる手法で、物質に残る『記憶』を読み取るやり方で視えたのは、リアーヌがくすんだ金髪の女に担がれて連れ去られる姿だった――





 
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