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82 アンソニー氏の証言②
しおりを挟むアンソニーの話は続く。
「しかし息子夫婦は彼を連れ戻すつもりでした。
我々コックス家の直系のみに聖属性の魔力が現れるのを彼らが知っていたせいでもあります」
リアーヌとレイモンドが『成る程!』と言いたげな顔になり、フロイラインとミリーが不思議そうな表情をするのを見てアンソニーは、ああ、と納得した顔をした。
「フロイラインはまだ教わってないんだね。
そうか、まだ2年生になったばかりだったか。
我々コックス家の直系に現われるような聖属性の魔力は単純に魔物避けなんだよ。
だからこの辺境ともいえない隣国近くの領地を王国から与えられてるんだ」
コックス領に面する切り立った崖の下に流れる川は濁流で、隣国からの侵入はほぼ無理だとされていた。
だが魔物は違う。
空を飛べる種類のものならそんなものは関係ないからだ。
辺境伯領都からは遠く王都から見ても中途半端な位置のコックス領に魔物討伐専門の騎士達を派遣すると考え無ければいけないほどの広さもなく、領民も多くはない。
しかし産出量は少ないとはいえ国を代表するような有名な銘柄のワインの原料になるぶどうの産地だ。
手放す訳にもいかず、かといって積極的に予算を組めるほど有用かと問われれば微妙ライン。
この中途半端な土地を魔物から守るためだけにコックス男爵家は王家から土地を賜ったのだという。
「大昔の聖女が興したという家系だが、子孫である我らにはそう大した力も無いけれどやはり魔物は忌避するんだよ。
何故か直系にしか現れない魔力だけどね。
フロイラインの母親は難産でね、次の子供を望めないかもしれないと医者にも言われてたんだ。
だから二人は直系の一人でもある次男を連れ戻したかったらしいんだ」
「コックス家って体の良い魔物避けなんだね・・・」
思わず真顔で零すフロイラインの横顔を見つめながら思わずアー◯製薬のゴ◯ブリ◯ャップを思い浮かべ『忌避剤・・・』と呟きそうになる口をへの字に曲げるリアーヌ。
「まぁ、そういうことだね」
アンソニーは苦笑した。
「隣国に飛び出して行った次男が大怪我をしたと聞けば心配をしないと言えば嘘になる。
放逐したとは言えやっぱり親だらね。
病院に入院したというのならその費用だって支払わなければそこに迷惑が掛かるだろう。
今後の事は本人と私が話をしてからという結論が出た途端、馬車が爆発してね・・・
その後は自分に対しての記憶がすっぽり抜け落ちていて、病院で目覚めた時は持ち物は全て水に流されたのだろうと説明された。
着て行った服が平民寄りのものを選んでいたから、てっきり周りも自分自身も平民だと思い込んだのも原因だろう」
そう言いながら浮かない顔でフロイラインを正面から見つめ
「すまない。私のせいでお前の両親を巻き込んでしまった」
白くなった頭を深々と下げるアンソニー。
「え~と、お祖父ちゃん? 気にしないでね。だってさ、それってお祖父ちゃんのせいっていうより叔父さんのせいでしょ?」
彼はフロイラインの言葉に頭を上げるが、眉は下がったままで後悔でいっぱいと言った表情だ。
彼女はそれを見て困った顔になり、
「どちらにせよ、両親の事はあの詐欺師夫婦だって思い込んで育った訳だし屋敷でホントの意味で育ててくれたのは、お祖父ちゃんとミリーだったもの。
結局私はお祖父ちゃんに育てられてたってことでしょ?
正真正銘のお祖父ちゃんっ子だったってだけじゃない。ね? オリバー」
過去の記憶を覗いてみても、フロイラインを着飾らせることと、『天使だ』と言って褒める事以外はオリバーとミリー達使用人達に丸投げだった両親に事の善悪など教わった覚えはまるでない。
寧ろオリバーによく叱られたり、稀に領地の視察に連れられて出かけた事のほうが記憶に鮮明に残っているのは、世話をしてくれる相手の心がちゃんと自分に向いていたせいかもしれないと、何となく思ったフロイラインだった――
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